アーティスト紹介

WSC #083 隙間の人

[スキマスキ]

ラッカー系塗料を使った塗装に苦しみ嘔吐も経験
「デジタル系プロ原型師」の新たなるチャレンジ

 幼少期に「男子の嗜み」として接着剤不要のガンプラのパチ組み(当然塗装もしない)程度は経験したことがあったものの、基本的には模型製作や造形の経験が一切ないまま、ZBrush(3DCGスカルプトツール)を使いいきなりフリーのプロ原型師を目指す──もちろんその下地には「ゲーム制作会社でCGモデリングを生業とし、そのスキルを生かした一種の転職」という背景が存在するのだが、実際にそれが成立するだけの実力を見せつけられたのは事実であり、これはやはり「ガレージキット的造形がはじまって以来の一大事件」と言わざるをえまい。
 簡潔に言えば、「いよいよ真意でのデジタルモデリング革命がワンフェスに押し寄せた」ということである。
 ……と、ここまでを読み、そこに書かれている内容が「WSC#081 kuniとほぼまったくいっしょ」であることに対し驚いた人も多いと思う。
 ただし、kuniと隙間の人のあいだには、ひとつだけ決定的に大きな違いが存在する。
 曰く、「結果的には今後もCGデザイナーとしての仕事も継続していくことになった」とのことだが、そもそもは、それまで培ってきたCGの仕事を完全に断ち切り、純粋なプロ原型師としてひと旗揚げる覚悟を決めたというその気持ちのあり方だ。
 というのも──最初はあくまで趣味でいじりはじめたというZBrushを業務上でも使いはじめていった過程で、『CGWORLD』誌を通じ、CGデザイナーとフィギュア原型師という異業種を「越境」しはじめた人の記事を見るにつけ「自分がCGで描いたものを実際に手に取って触れることができるものにしてみたい」という欲求が日々高まり、いよいよそれを抑えることができない段階へと到達。その結果、「ここぞ!」というタイミングを見測りゲーム制作会社を退職し、前回(='16年冬)のワンフェスにてディーラーデビューを飾ったというのだ。
 しかしその後、「自分がモデリングし立体出力したパーツのレジン複製品を塗装し仕上げていく過程で、じつはラッカー系模型用塗料を体が一切受け付けない」という致命的な問題が発覚。今回はナウシカの腐海対策用的な強力な防塵マスクを購入することで危うきを回避したというが、果たしてこの先はどうしていくのか?
 もっともそうした問題は知恵と努力で必ず解決できるはずなので、まずは彼の造形力と表現力、そしてその気概の高さを俯瞰視点で冷静に鑑みてほしい。
 まずまちがいなく、2~3年後にはこの業界でブイブイ言わせているプロ原型師と化しているはずである。

text by Masahiko ASANO

すきまのひと1987年10月13日生まれ。小~中学生時代からオタク趣味としての対象はもっぱらゲームで、格ゲー、音ゲー、RPGと、とにかくなんでもプレイしまくる日々を過ごす。その後大学へ進学したが中退、引き籠もり生活的な時期に独学でデッサンを学び、22歳のときにゲーム系のCG専門学校へ入学。同校卒業後はゲーム制作会社へ就職し主にモデリングを担当していたが、いまから1年ほど前に「フィギュア化を前提としたデジタル造形」に俄然興味が沸きはじめ、会社を辞めフリーランスのプロ原型師を目指すことを決意する。が、同時期に「フリーになったあともCGデザイナーとしての仕事を続けてもらえないか」という誘いを受け、フリーランスとして独立する(収入を安定させる)体制が完全に整うことに。そして'15年夏のワンフェスへ一般参加し現場の雰囲気を視察、'16年冬のワンフェスより“スキマスキ”名義にてディーラー参加をスタートさせた。今後は「CGデザイナーとプロ原型師を二足のわらじ状態にて活動していくことが目標」とのことである。

WSC#083プレゼンテーション作品解説

© 浅野いにお/小学館




© 浅野いにお/小学館


中川凰蘭

from コミック『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』
ノンスケール(全高250mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/12,000円(税込)※ワンフェス会場販売分100個限定
※諸般の都合により、一般販売は行われません


 WSC#081 kuniとほぼ同様にゲーム制作会社でCGモデリングを生業としていた“隙間の人”が、ある日突然ZBrushを使ってプロ原型師を目指しはじめ、そして初めてのディーラー参加にて『ワンダーショウケース』の座を勝ち取る──まるで冗談としか思えぬこの同時多発現象自体はともかくとして、隙間の人のプレゼンテーション作品である『中川凰蘭』(浅野いにお原作によるコミック『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』に登場する主人公の友人)を見れば、彼がWSCに選出されるだけの才能の持ち主であることは一目瞭然なはずです。原作の絵柄を的確にトレースしつつよい意味での硬質感と柔らかさを兼ね備えたその造形は、美少女フィギュア造形の作法をきちんと踏襲しつつも隙間の人なりの個性や資質が色濃く反映されており、まだまだこの先の「伸びしろ」を感じさせてくれます。
 また、正確無比な形状にて細密再現されたトランシーバーや、リアリティーの高いディテーリングが施されたバックパックなど、デジタル造形ならではのアドバンテージも見どころのひとつと言えるはずです。

※隙間の人からのコメント

 初めまして、ディーラー“スキマスキ”の隙間の人と申します。ワンフェス初参加でまさかこのような機会をいただけるとは思わず、ご連絡をいただいたときには気が動転しててんやわんやしました。選出していただいた背景にはデジタル造形の波という時流的なものや運が多分に絡んでいたと思いますが、こうして作品を評価していただけたことを大変うれしく思っています。ありがとうございます。
 元々自分はゲーム系の会社に勤めていて、仕事に対するフラストレーション(キャラクターが作りたかったんです!)解消のための趣味としてZbrushをはじめました。いろいろと落書きや、好きな作品のファンアートを作っているうちに、雑誌や情報サイトで3Dプリントについて知ることとなり、そちらの世界に傾倒していったという感じです。
 そういった経緯でしたので自分にはアナログ造形の経験がほぼなく、立体出力物の表面処理や修正、塗装、組み立て等のアナログ作業では初めてのことだらけでエライ悪戦苦闘しました。いやぁ……ホントすごいですね、手で作られている方々って……。ポリパテとか、あんな粘つくものでどうやって造形するんだ……(汗)。
 それでもとりあえず作り切れたのは作業場所を貸していただいた模型店のいろんな方々のアドバイスのおかげでした。塗装の基本や組み立て、瞳デカールの作成等いろいろと教えていただいたんですが、あれがなければ完成できていなかったかもしれません。この場をお借りしてお礼させてだたきます。本当にありがとうございました!
 今後はそういったアナログ技術のほうにもどんどん手を出して、デジタルとアナログ両方の強みを活かして製作していけたらいいなあ、と考えています。どんどんイベントにも出たいですし、お仕事としても造形に携わらせていただけたら最高ですね。
 というわけで、またどこかで目にしていただく機会がありましたらその際はどうぞよろしくお願いいたします。