アーティスト紹介

WSC #089 JACK

[AMBIVALENT]

元絵に似せる以上に大切なことがあるのではないか
世のスタンダードに対し抗う「パンク精神的造形」

 アニメ絵風に2D化された人間のキャラクターを3D化するという行為は、「元々3Dであった各所を2D化した記号の集合体を、どこまで本来の3Dに引き戻して表現するか」ということを意味する。たとえばそれは、「アニメの設定画よりも情報量を増やすため、髪の毛に繊細な凹モールドを彫り入れる」などといった行為にて行われることが多いわけだが、こと瞳まわりの表現においてはいま現在、「眼球を緩いR状に造形し、眼球の周囲を軽く窪ませるだけ」なものが大半を占めており、本来立体的であるはずのまつげは2D的手法にて塗装かデカール処理等で再現するのがごくごく一般的な手法とされている(ただしスケールが1/4ぐらいにもなるドールの場合は、まつげが植毛処理にて3D再現されるのが定番化している。このあたりはこの世界のマニア以外には感じ取ることが難しい、フィギュアとドールの境界線と言えるだろう)。
 そうしたいま現在におけるフィギュアの瞳まわりの表現において、一石を投じたのがJACKという存在だ。JACKの造形する美少女フィギュアのまつげは、まるで実在する市販の付けまつげをボリューム過多にデフォルメしたような感じにて立体表現されている。その手法はある意味相当にピーキーで、人によっては「(一般的な美少女フィギュアと立体表現の方法が異なりすぎていて)生理的にちょっと受け入れ難い」と感ずる人もいるかもしれない(実際のところ、ぼくも100%手放しでそれを肯定しているわけではない)。
 ただしこうした「まつげはレジンキットを組み立てる側が塗装して再現するのが常識である」という世の流れに抗う姿勢は相当にパンクだと思うし、この手法をハードエッジに突き詰めて行けば、JACKの造形表現が新たなトレンドを生み出す可能性は充分にあると思う。
 さらに言うと、今回プレゼンテーション作品となったレムに関してはよくも悪くもさまざまな意味においてアニメの設定画とは似ていない。ただし、「元絵よりもあえてちいさめに造形された靴」や、「元絵のラインとは明らかに異なるデフォルメを用いて魅力的に造形された脚線美」、そして「元絵とは異なる特徴的な横顔の造形」などを見るに付け、JACKがいま「どうやら“化け”かかっている」旨は容易に想像することができるはずだ。
 フィギュアメーカー系の仕事を依頼される=コンスタンスに元絵そっくりの美少女フィギュアを量産し続けるのはやや厳しい資質のようにも感ずるが、であるからこそ、その持ち前のパンク精神とハードエッジな先鋭的造形をより突き詰めてほしい希有な人材と言えよう。

text by Masahiko ASANO

じゃっく1985年6月15日生まれ。幼少期からロボットアニメ好きであったものの、当時暮らしていた愛媛県はテレビのチャンネル数が少なくオタク文化が育たぬ環境に身を置いていたため、ほぼすべての情報源を『コミックボンボン』に頼る少年期を過ごす。その後東京の大学へ進学した際に学校に模型部が存在し、大学1年生の夏に先輩がワンフェスへディーラー参加することになり「お手伝い」としてディーラーパスを首に下げワンフェスへ初参加を果たす。そして「次はオマエも作品を出品しろ」的な話の流れとなり、次回のワンフェスで『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』に登場するブラックサレナを造形することで正式にディーラーデビューを飾る。ちなみにまつげを立体的に造形するようになったのは『pixivイラストレーター年鑑 』に掲載されていた初音ミクの3D化(’11年)からで、「そのイラストはまつげを立体的に造形しないとイラストの雰囲気がまったく醸し出せなかったため」というところにあったという。ただしその後もまつげの立体造形にこだわり続けているところを見ると、本人的にはこの手法にかなり手応えを感じているようだ。

WSC#089プレゼンテーション作品解説

© 長月達平・株式会社KADOKAWA刊
/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会




レム

from TVアニメーション『Re:ゼロから始める異世界生活』
ノンスケール(全高190mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場価格/16,000円(税込) ※ワンフェス会場販売分80個限定
※諸般の事情により、一般販売は行われません
※当日版権扱いのため、選出アーティストによる独自のアレンジが保たれております


 前回('17年冬)のワンフェスにおけるアマチュアディーラーはちょっとした《レム祭り》状態で、各所でさまざまな『レム』(TVアニメーション『Re:ゼロから始める異世界生活』に登場する女性キャラのひとり)の造形物を散見することができました。
 その中においてJACKの手によるレムは、もっとも「攻めた」作品のひとつであったと言えるでしょう。立体的に造形表現されたまつげ、極端にちいさく造形された足(靴)と独特のデフォルメに基づく脚線美……そのピーキーさ具合に対し、それを見る人により好き嫌いがはっきりと別れる造形と言えるかもしれませんが、「元絵にただただ似せることよりも、じつはもっと大切なことがあるのではないか?」というガレージキットスピリッツを見事体現した存在に違いありません。そして、それらは眼球をわざわざ別パーツとしたパーツ構成まで含め、パーツ状態でじっくりと眺めていると「……う~ん、なるほど!」とさまざまな意味で唸らされる内容となっています。ちなみに、当プレゼン作品には右目が隠れた状態の前髪パーツも付属します。レムファンにとってはうれしいオプションパーツと言えるはずです。

© 長月達平・株式会社KADOKAWA刊
/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会


© 長月達平・株式会社KADOKAWA刊
/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会


※JACKからのコメント

 こんにちは、初めまして。“AMBIVALENT”のJACKといいます。当初は大学サークルの“関東学院大学模型道楽会”って名前でしたが、人数が増えてきたのでAMBIVALENTを立ち上げました。道楽会のほうはいまも後輩の子たちが続けてます。
 最初に海洋堂さまからお電話をいただいたときは電話を取れず留守電に入ってたんですけど、そのとき思ったことは「……サンプル提出し忘れたかな?」でした。けど改めてお話を伺ったところ『ワンダーショウケース』へのお誘いで本当にビックリしました。だって、……レムですよ? 前回のワンフェスはたくさんのディーラーさんたちがレムを出品する人気キャラだったので、まさか自分の作品が選ばれるとはホント夢にも思いませんでした。
 あと自分の作風について、よく「元絵に似てない」って言われるんですよ。いやいや私だって気にしてましたよ。けど何回か設定画のとおり作ろうって挑戦してみたけど、楽しくないんだもん。なんかストレス溜まるし。なのでそのへんはもう考えないようにしました。「自分らしい表現」を追い求めていけばいいかな、って。
 そしてそんな感じでいままで10作品くらい作ってきました。だいぶ遠まわりしたような気がするけど、ようやくその「自分らしい表現」が見えてきたような気がします。たぶん。そろそろデジタル原型にも手を出してみたいし、またメカ物なんかも作りたい。電飾とかもおもしろそう。まだまだやりたいことがたくさんあります。
 あー、あと今回レーベルプロデューサーのあさのさんに「塗装がなぁ……」って言われたのでまじめに練習しないと……っというわけでこれからも精力的に活動していきたいと思いますのでよろしくお願いします!