アーティスト紹介

WSC #094 クッキー草

[クッキー草]

他に類を見ないレベルに基づく空間構成能力の高さ
台湾からやって来た「驚くべき新たな才能」

 本来ならばこのアーティスト解説は『ワンダーショウケース』に選出された造形作家の特徴などを語ることに徹したいのだが、ただしクッキー草に関しては、いま彼が置かれている状況とWSCプレゼンテーション作品となった天道様が産み落とされるに至った超難解な過程に関しても綴らざるを得ないだろう。
 大阪総合デザイン専門学校 フィギュア専攻の卒業時、同学科の非常勤講師を勤めている吉田アトリエ代表・津本治也の目に留まり、昨年3月、同社にアルバイトとして雇用されることに(その半年後に正社員契約となる)。そして、正社員契約を交わすその直前に「会社の仕事として」勤務時間を使った天道様の立体化を津本より提案されるに至った。じつはこの天道様、津本と同じ大阪総合デザイン専門学校のコミックアート学科講師であるイラストレーター“ジョン平”の手によるもので、クッキー草がそれを立体化し世に発表することにより、《総合デザイン》を冠する同校に対しポジティブで予知不能なエフェクトが生ずるのではないか……という考えに基づく、津本のプロデュースによるかなり特殊なプロジェクトであったのだ。
 が、結果的に、前回のワンフェス会場における大阪総合デザイン専門学校 フィギュア専攻学生作品展示販売ブース(OSCDFIG)にてぼくはこの天道様(サーフェイサーが吹かれたグレー1色の状態)の造形に圧倒され、クッキー草を次期WSCアーティストとして選出することを即決するに至ったわけだから、津本の目論見はある意味において大成功と化し、そしてそれを成し遂げるに至ったクッキー草の造形作家としての質の高さはとにかく特筆に値するものであったということになる。
 さて、ここからがようやく本題となるわけだが──クッキー草の造形作家としての最大の特徴は、他に類を見ないレベルに基づく空間構成能力の高さと、それを見ている者をうっとりとさせるほどの流れのある柔らかな表現力に尽きよう。なお、ZBrushを駆使したデジタルモデリングなので緻密なディテールは評価対象に値しないものの、ただし、そうした緻密なディテールへのメリハリの付け方が抜群に上手く、いたずらに情報量過多なだけのデジタルモデリング作品を得意とする人々とは完全に一線を画する才能であると言ってよいだろう。
 なお、すでに造形を生業とする職に就いているわけだが、その才能にはまだまだ伸び代がたっぷりと残されているはず。今後は創作デザインによる美少女フィギュア造形にもチャレンジしてみたいそうで、さらなる飛躍に対し素直に期待したいところだ。

text by Masahiko ASANO

くっきーそう1990年1月31日、台湾生まれ。少年時代はオタク的な趣味に対し興味がなかったものの、中学生のときにMMORPG(多人数プレイ型ロールプレイングゲーム)の『クロスゲート』にハマったことをきっかけとし、日本のイラストやコミック、フィギュアに強い憧憬を抱くようになる。台湾の大学では2Dの勉強をしていたものの自分自身納得のいくイラストが描けず、3年生のときに3Dも勉強すべきだという思考が生じ、その結果から「日本でフィギュア造形を学びたい」という考えに辿り着くことに。大学卒業後、台湾と訪日後の大阪で日本語を猛勉強し、大阪総合デザイン専門学校 フィギュア専攻へ進学。同校卒業後に吉田アトリエ(※今年4月1日に株式会社ロイスエンタテイメントと統合)に雇用された一件はアーティスト解説を参照されたし。ちなみに本人的には「作り続けなければ己の存在は忘れられてしまう」という危機意識があり、今後も生業としての造形だけでなく、自らのモデリングネームと同じ“クッキー草”名義にてワンフェスを主戦場としたディーラー活動を続けていくつもりだという。

ツイッター https://twitter.com/manahui

WSC#094プレゼンテーション作品解説

©ジョン平


天道様

from イラストレーター“ジョン平”によるイラストの立体化
ノンスケール(全高200mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/39,000円(税込) ※ワンフェス会場販売分20個限定
ワンフェス以降の一般販売価格/44,000円(税別)

完成見本製作/K2(GILLGILL)&きたかわ


 台湾人であるクッキー草は「日本でフィギュア造形を学びたい」という夢を抱き台湾在住時から日本語を猛勉強、訪日後に大阪総合デザイン専門学校のフィギュア専攻卒業を経て大阪で造形を生業とする職に辿り着いた……というかなりめずらしいプロフィールの持ち主です。
 プレゼンテーション作品『天道様』(イラストレーター“ジョン平”の手によるイラストの立体化)はZBrush造形ならではの特性に目が行きがちですが、ディテール過多ながらもきちんとメリハリを効かせ「“集中と拡散”理論(あえてディテールを少なめにしさっぱりとさせた部分と、ディテールを詰め込みまくった部分を意図的に用い抑揚を設ける方法論)」を見事に成立させている点と、十二単的な衣装をまとう華奢な美少女(?)キャラクターにより組成された、まるで立方体のような形状(全幅236mm/奥行き176mm/全高200mm!)を有する空間構成を見事にまとめ上げたある意味「トンデモ級」な作品です。作品があまりにも巨大で情報量が多すぎるためなかなか目が行かないと思いますが、作品の中央で凛々とした表情&ポーズを見せる美少女キャラクターのしなやかな造形も要注目ポイントです。

© ジョン平


© ジョン平


※クッキー草からのコメント

 どうも初めまして、クッキー草の王と申します。
 人気の高いキャラクターはワンフェスでたくさんの人に作られています。もちろん、それを見ることもおもしろくて楽しいですが、自分が作るなら、もっとめずらしくてかわいいものを作りたいですね!
 今回の作品は長い時間を要して不思議な経緯で生まれました。これもひとつの縁と言えるでしょう。元絵のイラストがすごかった! すごく長い時間苦労しましたが、そのおかげで造形技術もかなり成長しました。髪の毛と服のシワを作るのがすごく楽しかったです。完成後に見えなくなってしまうところまで一生懸命作って、バカみたいですが、そうしないと納得できませんね。
 イラストは平面なので、見る角度はひとつしかないです。せっかく立体化するなら、どの角度からでも格好よい作品に見えるようにと思い込んで作りました。
 『ワンダーショウケース』に選ばれたのは本当にうれしかったです。日本に来て1回だけでもいいから、夢を見たいと思った──でも、日本での就職は外国人にとってなかなか難しいです。日本で就職が失敗し帰国して台湾で普通のサラリーマンになる可能性が高いと思っていましたが、まさかいま、夢のひとつが叶いました。
 いま思い出しても、本当に不思議なことと思います。ここまで辿り着いたことに対し、周囲の人にたくさん感謝しています。本当にありがとうございました。これからも、がんばって作り続けます!