アーティスト紹介

WSC #098 イノリサマ

[祈リサマ]

「……なんとなく怖い」という評価を脱却すべし!
セミリアル系美少女フィギュア造形の先鋭的刺客

 以下に記す件はたびたび綴ってきた話だが、アニメや漫画に登場する美少女キャラクターというのは、生身の女体を一度解体~記号化し、それを再構築する際に情報量を削ぎ落とすことによって成立している。だからそうした美少女キャラクターを立体化する際、記号化され削ぎ落とされていた情報を付け足してやれば、その美少女キャラクターに対し生身の女体が有する身体のラインやディテールを加味することが可能となる。俗に“セミリアル系”などと称される美少女キャラクター造形は、こうした手法に基づき成り立っていると言ってよいだろう。
 もっともこのセミリアルという手法は想像以上にリスクが高く、生身の女体が持つ情報の付け足し方が上手ければ称賛の対象と化すものの、同情報の付け足し方のバランスが少しでも悪いと途端に「なんだか怖い」「生理的にダメ」という話に陥りがちなのだ。
 そしてそのセミリアル系の作風にて一部ではつとに知られた造形作家、それがイノリサマという人物だ。
 ただし前述した例そのままに、その作風がプラスに転ずるときとマイナスに転ずるときのギャップが激しく、その安定感の乏しさから『ワンダーショウケース』選出までには至らずにいた……というのが実情であった。
 もっとも今回プレゼンテーション作品となった“ラヴィニア・ウェイトリー”に関して言うと彼の資質がすべてよい方向性に転んでおり、とくに膝周辺を筆頭とする脚のセミリアル系造形表現は両手を挙げて褒められるものがある(簡潔に言えば、「自分の作風と整合を取ることのできるネタ=造形対象選びの段階で勝った」ということなのだろう)。本人曰く、スカートを透明レジンパーツとした理由もそこにあり、「膝をメインとした脚のセミリアル的造形表現を100%可視化するためには、大腿部が醸し出すそのラインを不透明レジンパーツで隠すわけにはいかなかった」と語る。そして同時に、「じつは、これまでは己の造形物が“怖い”と言われるケースが多かった」と素直に告白してくれたのだ。
 そう──己のストロングポイントたるセミリアル系造形表現が、じつはウィークポイントと表裏一体関係にあるという事実に彼自身も気付いてはいたのだ。
 というわけで、あとはそのセミリアル系造形表現にきちんと磨きをかけて行けば、イノリサマの作風はいま現在のガレージキットシーンに必ずや馴染んでいくに違いない。己の作風をどこまで客観視し改善することができるか、今回こうしてWSCに選出されたことでそれが早々に成し遂げられることを大いに期待したい。

text by Masahiko ASANO

いのりさま1985年2月13日生まれ。小学生時代、友人の兄が遊んでいた『SDガンダムワールド ガチャポン戦士』等のゲームを通じガンダムシリーズに興味を抱くこととなり、ガンプラ製作に手を染めるも比較的あっさりとフェードアウト。中学生時代には『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦艦ナデシコ』といったアニメに傾倒、その流れで7~8年ほど前のワンフェスへ『ToHeart2』の公開録音を見に行くため初の一般参加を果たした際、会場にてフィギュアの放つ魅力にノックアウトされることに。なお、高校卒業後はコンピュータ専門学校へ進学、プログラマーと化す予定であったのだが、「……じつは自分は性格的にプログラマー向きでない」という自己分析に則り半ば強引にゲーム制作会社へ就職。その後ゲーム制作会社で3DCGモデラーを努めながらガレージキット的造形を独学で覚え(ちなみに会社の仕事ではMayaを駆使しているものの、個人的な造形活動ではZBrushを活用)、'13年夏より“祈リサマ”名義にてワンフェスへのディーラー参加を開始するに至る。

ツイッター https://twitter.com/inorisama

WSC#098プレゼンテーション作品解説

© TYPE-MOON / FGO PROJECT


ラヴィニア・ウェイトリー

from スマホ用ソーシャルゲームアプリ『Fate/Grand Order』
1/7スケール(全高210mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場価格/13,000円(税込)
※ワンフェス会場販売分40個限定
※諸般の事情により、一般販売は行われません


 「イノリサマ」という一風変わったモデリングネームと、ZBrushを駆使した独特のセミリアル系美少女フィギュア造形で、一部の好事家のあいだではすでに有名な存在であった彼が、いよいよブレイクスルーを果たした作品──それが今回WSCプレゼンテーション作品となった『ラヴィニア・ウェイトリー』(『Fate/Grand Order』に登場するキャラクター)と言えるでしょう。
 数多くの魅力的なキャラクターが登場するFGOの中でも決してメジャーなキャラとは言えませんが、自身の作風とキャラの醸し出す空気感が見事にジャストフィット。デフォルメの方向性を一歩まちがうと薄気味悪くなることもあるセミリアル系の造形がハマりにハマりまくり(とくに本作では膝まわりの造形が秀逸!)、おそらくはラヴィニアというキャラのことをよく知らない人の目にもイノリサマの実力のほどが見て取れているのではないでしょうか。また、造形とは関係ありませんが、美少女フィギュアのレジンキットを仕上げる塗装の技術とセンスに秀でているのも彼のストロングポイントのひとつ。ぜひワンフェス会場では完成見本の仕上げの美しさに見入ってください。

© TYPE-MOON / FGO PROJECT


※イノリサマからのコメント

 こんにちは、うっかりこんなことになってしまいました、イノリサマです。
 「あ、代わりに再販してくれるんだ、自分が何も背負わずに再販の約束を守れるなら」みたいな軽い気持ちでオファーを受けてしまいましたが、思ったよりも大ごとでした。……いやぁ……浅はかでしたね。
 が、浅はかでしたが後悔はしておりません、とてもうれしく思います。せっかくこうしてコメントを書く枠をいただけましたので、作品を見に来てくれた方、購入してくれた方、さらにはキットを完成させてくれた方へ、この場を借りてお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございます!
 今回選出していただきましたラヴィニア・ウェイトリーですが、キャラデザを見た瞬間に気に入り、「あ、作りたい」となったキャラクターで、本当に楽しく作成させていただきました。創作系であれ版権物であれ、自分が作りたかったりほしかったりするものを好き勝手作っております。このあたりは個人で参加するイベント活動としての強みですよね、好きだから、やりたいからという理由だけで作れる。そうやってできたものを「好きだ」といってくれる方がひとりでもいてくれたなら、とてもうれしく思います。自分の好きなラインが、他の大多数の人の好きのラインじゃないという自覚があるので、とくにですね。
 もうワンフェスに出はじめて5年になります。「市場でプレ値で売られているほしいキャラクターのフィギュアがあり、それを買うならば自分でほしいものを作ってしまおう」というのがはじまりだったかと思います。それがこんなに長く続くことになろうとは……見事に人生踏み外した感ありますが、元々しっかりと地面を踏みしめていたかと考えると、まったくそんなことはなかったので問題はありません。
 これからも続けられる限りは、創作系でも版権物でも自分の好きなものを作ってイベントに参加していきたいと考えていますので、どこかのタイミングで少しでも気に入ってくれたものがあれば、ぜひ見にきていただけるととてもうれしく思います。これからも何とぞよろしくお願い致します。