アーティスト紹介

WSC #099 しぃた

[θ【しぃた】]

第4形態の表現化、ホントにそれでおもしろい!?
塗装まで含めた「一本勝ち」は、この男で決まり!

 劇場映画『シン・ゴジラ』に対し、「あの映画の主役は一体何(誰)だったのか?」的な議論は未だもって各所で展開されている。《政治》《日本》《自衛隊》《巨大不明生物特設災害対策本部》といろいろな見解があるだろうし、そのすべてがある意味正解だとも思うのだが、ワンフェスに訪れるような怪獣ファンにとっては《竹谷隆之デザインによるゴジラ第4形態のリアルな造形再現》だけが異常な重きを置かれていたことに対し、正直なところ落胆した。確かに、竹谷による第4形態の雛形造形は圧倒的だ。ただし、初代ゴジラをオマージュとした第4形態の姿はキャラクター性という意味においてはそれほどのインパクトはない。第4形態ゴジラを根を詰めてリアルに模造し、皮膚の隙間に差し色の赤を塗る。……これほど単調な二次創作造形物を製作し、それで満足している怪獣造形ファンって、一体何なんなのだろう……? ものすごく乱暴なもの言いなのは当然分かってはいるが、その手の怪獣造形ファンに対し猛烈に萎えていたのは事実である。
 それゆえに、“しぃた”の作品に邂逅した際には心底感動させられた。その理由は主に3点。
 ●その1/ゴジラそのものの造形が、生物学的見地において圧倒的に上手い。●その2/ゴジラと超高層ビルがダブル主演状態となっていて、しかも、超高層ビルの破壊のされ方が樋口真嗣特撮監督ならではの爆発表現で造形されており、さらに、ゴジラの口から放たれる放射線流が「ゴジラの口」ではなく「ビル側」に接着されていたこと。●その3/数多くのワンフェスディーラーにおける造形作家が第4形態のゴジラを「黒と赤で塗る」ことしか考えられずにいたのに対し、しぃたがあの映像を見てゴジラを青紫で塗装しようと考えた発想力&観察力と、それを最後まで突き通した心のあり方。
 しかもこのヴィネットが'04~'07年にバンダイによりシリーズ展開された酒井ゆうじプロデュース『ゴジラ全集』(約300円ほどで販売された全28種の食玩)のオマージュとなっているあたりまで含め、「この男、じつはなかなかあなどれない」のである。
 ちなみに、ワンフェス参加当初は美少女フィギュアを造形し『ワンダーショウケース』選出を狙っていたそうなのだが、「どうやらWSCは出来レースらしいのでもういいや、と考えを切り替えた」という失礼極まりない(笑)あたりまで含め、なかなかにおもしろいキャラクターと言えよう。クリーチャー的造形のほうが上手いのは事実だが美少女フィギュア造形もそこそこ行けるので、この先も決して奢ることなく大いに精進してほしいと思う。

text by Masahiko ASANO

しぃた1986年3月23日生まれ。もの心が付いたときから『ウルトラマン』『仮面ライダー』『ゴジラ』『ガメラ』等の特撮作品に心を惹かれ、小学3年生~卒業時までは『ミニ四駆』へ本格的に傾倒(「当時ランキングが存在すればかなり上位へ食い込んでいた自信があった」とのこと)。大学は東京理科大学の工学部機械工学科へ進むも、「バイトはしたくないがお金がほしい」という理由から「市販のプライズフィギュアを改造しネットオークションで販売する」という極めて自堕落な活動を通じてガレージキット的造形へ着手しはじめることに。ワンフェスへは“θ【しぃた】”名義で'15年夏よりディーラー参加しはじめ、「本当は怪獣やクリーチャーを作りたかったが、やはり儲けたかったので(苦笑)」というこれまた不純な動機で当時大流行していたタイトルの美少女フィギュアを造形し販売、販売個数こそあまり多くなかったもののつねに完売を記録した。ちなみにメカ系の造形にだけは3DCGソフトのsolidworksを使用するというハイブリッドモデリングを得意とし、「将来的にはプロの原型師で食べていくことができたら最高!」という思惑を抱いているという。

ツイッター https://twitter.com/tm_theta

WSC#099プレゼンテーション作品解説

TM & © TOHO CO.,LTD.


ゴジラ第4形態 “覚醒Ver.”

from 劇場映画『シン・ゴジラ』
ノンスケール(ゴジラ頭頂高ベース込みで75mm、超高層ビル ベース込みで全高110mm)
レジンキャスト&Form2専用レジンキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/23,000円(税込) ※ワンフェス会場販売分30個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/25,000円(税別)


 「竹谷隆之によるゴジラ第4形態(『シン・ゴジラ』)の雛形造形における、超絶ディテールとエッセンス(こまかい歯、ちいさい手、これまでの歴代ゴジラと比べると情報量が圧倒的に高い背ビレ、表面の凹凸モールド等)を小柄な作品においても根限り詰め込んでやろう!」。ゴジラの頭頂高は、台座を含んだ状態でわずか75mm(!)。スカルピーを使い、ときに折れそうになる心(とくに尻尾の棘的な部分の作成時)を叱咤し黙々と作業を続けた結果完成したのが、この圧倒的な存在感を誇る“しぃた”による『ゴジラ第4形態 覚醒Ver.』です。
 さらに注目してほしいのが、超高層ビルの破壊のされ方が樋口真嗣特撮監督ならではの爆発表現になっていることと、ゴジラの口から放たれる放射線流がゴジラの口ではなく超高層ビル側に接着されていること。また、レジンキャストでは絶対に成型不可能なディオラマ内の街灯、信号機、ガードレールといった超精密パーツは、3Dプリンターである“Form2”の専用レジンにて成型しているのも「いかにもいまの時代」ならではポイント。単なる着ぐるみ再現とは次元の異なる、「新世代の怪獣ガレージキット」と言っても過言ではないでしょう。

TM & © TOHO CO.,LTD.


※しぃたからのコメント

 『ワンダーショウケース』……それは出来レースだと思っていた私をお許しください。こんにちは、“しぃた”と申します。
 冒頭いきなり申し訳ありません。でも、みなさんの中にもそう思っている方、少しはいらっしゃるんじゃないでしょうか!? 少なくとも僕は思っていました(笑)。
 しかし、こうして私が選ばれたということは、一切そんなことはなかったようです。重ね重ねお詫び申し上げます。
 さて、ありきたりですが、上述のような気持ちもあり「まさか選ばれるとは!」という感想は禁じ得ません。ワンフェスにディーラー参加しはじめたころは、「WSCに選ばれて行列のできるディーラーに……」なんて甘い野望を描いていたのですが、ゴジラを作りはじめてからは、「まあゴジラで選ばれることはない」と高を括っていたので、よりビックリです。
 さて、今回のゴジラ、わかる人にはすぐわかると思いますが、酒井ゆうじさん原型の某食玩のパク……いやオマージュですね。「初代の横に並べたい! けどない!」ってなわけで作りました。
 途中、複製不可の危機もあり、「複製を前提としてんだからそこを考えないのは原型師失格だろ、バーカ」みたいなお言葉をいただいたこともありますが、「いやプロ原型師ちゃうし!」というツッコミはさておき、ワンフェス参加当初よりせっかくのワンフェスというお祭りなので“やりすぎ“くらいやってやろうというのをモットーにしていたので、その想いも報われた気がしています(複製を対応して下さったR.C.ベルグさん、助言や激励をいただいた方々、その節はありがとうございました)。
 今後も怪獣はもちろん、アニメやゲームのキャラ、もしかしたらオリジナル(創作系)などジャンル問わず、「私は好きにした。君らも好きにしろ」、そんなものを作りたいと思っています。