アーティスト紹介

WSC #100 雨谷 怜

[SAKAKI Workshops]

「ZBrushマスター」の直系愛弟子かと思いきや……
瞬く間に自力でここまで駆け上ってきた3DCGモデラー

 雨谷が“Pixologic公認ZBrushマスター”榊 馨が経営する3DCGクリエイト会社(株)Wonderful Worksの社員であるということを知った時点で、「……あ、この人は『ワンダーショウケース』とは無縁な存在なんだろうな」と一瞬考えた。「榊に常時手取り足取りコーチングを受けている愛弟子なのだろうから、これぐらいの美少女フィギュア造形はできて当然だろう」と。
 が、雨谷自身にその点を尋ねてみたところ、こちらの考えがほぼ100%異なっていた旨に気付くこととなる。
 そもそも雨谷はSEを生業としていた'11年から、3DCGアニメを作成するための統合環境アプリケーションであるBlenderを使い、趣味で(3DCGゲームのように可動させることができる)リアルタイム系キャラクターモデリングを楽しんでいたのだという。その後、リアルタイム系キャラクターモデラー仲間の会合でWonderful Worksの社員とたまたま知り合いになり、外注というかたちで何体かのリアルタイム系キャラクターモデリングを請け負うことに。そして、その流れでWonderful Worksへ入社を果たすこととなった。
 ただし同社へ入社後も役職はあくまでリアルタイム系キャラクターモデリング担当であり、仕事で使用しはじめた3DCGソフトはやはり統合環境アプリケーションであるMaya。フィギュア造形とは「似て非なる」リアルタイム系キャラクターモデリングを毎日の仕事としていたのだが、キャラクターモデラーとしての幅を広げるため個人的にZBrushの勉強にも取り組みはじめ、'17年夏からディーラーとしてワンフェスへの参加をスタート。つまりこの瞬間から、「二足のわらじ」として美少女フィギュア造形作家としての道をも歩みはじめた。
 ちなみに雨谷のフィギュア造形の手順は非常に理に適ったもので、まずは使い慣れたMayaで大まかな造形を行い、ポーズを固定させた上でそのデータをZBrushへまわし、ディテールを仕上げていくというもの。どの角度から眺めてもデッサン的に破綻していてはいけないリアルタイム系キャラクターモデリングを仕事としているだけにその造形力は極めて高いのだが、本人曰く「造形的な実力はまだまだだと感じているし、己の作風もまだ確立されていないと思う」とのこと。それでこのクオリティーなのだから驚くしかないが、「この先は可能ならばフィギュア造形もできるリアルタイム系キャラクターモデラーを目指したい」という言葉には、「……もう、ちゃんとモノになってるじゃん!」という言葉をもって返したい。事実、「今後はここをもっと伸ばしていくべきだ」というアドバイスの言葉が見つからないのである。

text by Masahiko ASANO

あまがい れい1978年7月29日生まれ。中学時代にアニメや漫画に興味を抱きはじめたが、大学入学をきっかけにオタク的な趣味とは完全に無縁に。が、'11年に突如リアルタイム系キャラクターモデリングにハマった結果、あれよあれよというまに転職まで持ち込み、趣味をそのまま職業とすることに成功する。そうして転職した会社が「ある意味(よい意味で)とんでもない会社」であったがゆえ、自然と美少女フィギュア造形にも興味が湧きはじめ、'17年夏、個人ディーラー“BMZ”にてワンフェスに初ディーラー参加。そして'18年冬以降は所属会社の直営ディーラーとも言える“SAKAKI Workshops”よりワンフェス参加を続けることに。なお、ワンフェス参加以前にアナログでフィギュア造形をした経験は皆無であったものの、すでに現在は自分で複製まで行える段階にまで達している。ただし塗装に関してはなかなか上手くいかないそうで、いまはまだプロのフィニッシャーにそれを任せているという。もはやWSCでもこうした人材の排出は初ではないためいまさら大きな驚きはないものの、やはり時代の推移を感じずにはおれない。

ツイッター https://twitter.com/amagairei

WSC#100プレゼンテーション作品解説

© TYPE-MOON / FGO PROJECT


英霊旅装 アビゲイル・ウィリアムズ

from スマホ用ソーシャルゲームアプリ『Fate/Grand Order』
1/7スケール(全高230mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場価格/19,900円(税込) ※ワンフェス会場販売分60個限定
※諸般の都合により一般販売は行われません

完成見本製作/路川宏之


 またもや「ゲーム業界からフィギュア業界への越境組」の登場です。雨谷の生業は、統合型3DCGソフトを駆使したゲーム用リアルタイム系キャラクターの創作。しかし「ポーズを固定し、服のシワや関節部分のディテールなどをきっちりとしたデッサンに基づきモールドしたフィギュア造形」への憧憬が次第に募りはじめ(そういう意味では、じつは彼の一流プロ原型師たちへのリスペクト度数は生半可でないものがあったりします)、自力で階段をコツコツと登り続けていった結果、いよいよ辿り着いたのがプレゼンテーション作品となった『英霊旅装アビゲイル・ウィリアムズ』(『Fate/Grand Order』の登場キャラクター)です。
 パッと見で「元絵にそっくり」のひとことで終わらせてしまう人もいると思いますが、元のキャラクターデザインよりも若干幼さを前面に打ち出し、なんとも言えない柔らかさを醸し出しているのが美少女フィギュア的造形としての見どころ。なお、同作品には瞳や眉毛、ジャケットのワッペンを再現する専用デカールが付属するため、「美少女フィギュアの目を塗装するのが苦手」という人にとっては非常に重宝されることまちがいなしです。

© TYPE-MOON / FGO PROJECT


※雨谷 怜からのコメント

 初めまして、雨谷 怜と申します。
 普段はゲーム用のキャラクターモデラーをする傍ら趣味と実益を兼ねてフィギュアの造形にチャレンジしています。
 フィギュア製作は普段仕事ではできないことに挑戦できるため、とてもよい勉強になります。楽しくて、かつ勉強になるなんて最高ですよね。
 さて、今回製作したキャラクターはイラストを見た瞬間に「ああっ、これを作りたいっ」と思ったほどすばらしいデザインだったので、喜々として作業をはじめてみたものの、ひととおりのパーツを揃えていざディテールを詰める作業の段階になったらこれがもう難しくて。イラストに描かれていない部分をどう作るかで、だいぶ長いあいだ悩んでいた気がします。
 ですが非情にも締め切りは待ってはくれませんので、「いまできる最高のモノを」という気持ちでなんとか形にはしましたがいかがだったでしょうか? 少しでもこのキャラクターの魅力を立体として再現できていればうれしいのですが……。
 「キャラクターを作りたい!!」と思いたち、勇気を出してこの業界に飛び込んでみてから早いものでもう数年が経とうとしてます。まだまだ未熟で学ばないといけないことがたくさん本当にたくさんあって、いまも何からはじめればよいか悩んでいるくらいです。
 とはいえ、焦っても仕方ないですし着実に一歩一歩、キャラクターを作ることを生業にできた幸運に感謝しながら日々学んでいきたいと思っています。
 どうか皆さまこれからもよろしくお願いします。
 最後に、フィギュア製作のイロハも知らなかった私がこうやってワンフェスという場に参加し、今回『ワンダーショウケース』に選出していただけるようにまでなれたのは、社長をはじめ多くの方にお力添えいただいたおかげです。本当にありがとうございます。