アーティスト紹介

WSC #105 Sagata Kick

[Sculborns]

「アドバイスを促す余地がすでに存在しない」事実
この先どの境地まで達するかを楽しみにしたい逸材

 仮に創作系クリーチャーというジャンルの造形物に一切興味がない人でも、Sagata Kickの作品を見れば「また新たにすごい才能が現れた」ということだけは直感的に感じ取れるのではないか。とくにそのデザインセンスは日本人的ではなく、「きちんとした設定がありそうでいながら意図的にそこを強調して描くことなく、1枚絵のイラストとして完全完結させるアメリカ人系イラストレーターのそれに近い」と言ってよいだろう(なおその理由のひとつとして、美大生時代にマクファーレントイズ社製の『マクファーレンドラゴンズ』シリーズにインスパイアされた部分が少なくないという)。
 また、ZBrushを使った3DCGモデリングも文句の付けどころを見つけるのが難しいほど秀逸で、とくにディテールの粗密感コントロールは特筆モノ。デジタルの優位性を活かしただいたずらに精密さのみを強調するのではなく、「ディテール密度の低い箇所を意図的に設けることにより、造形作品全体を盛り上げる」という鳥瞰視点を活用した行為が25歳という若さで成し遂げられていることには素直に驚かされる。
 が、本人曰く、「デジタル造形に切り替えた結果、PC画面上だと造形物の重量や作業スペースの縛りがなくなり快適に作業ができるため一度ハマったら戻れなくなってしまったものの、アナログ造形ならではの彫りの深さやタッチがそのまま表れるところなどはデジタルではまだ追いつけないところだと思うため、またアナログ造形ができるようになりたいという気持ちもある」とも語っており(実際にいまも3Dデータを立体出力したのち、エポキシパテ等を使いアナログ作業にて出力物にメリハリを付け直しているらしい)、デジタルの優位性のみに甘んじようとしない姿勢も評価に値するだろう。
 ちなみにカラーリングデザインと塗装技術の高さも見どころのひとつで、配色全体でもっとも大きな面積を占めるベースカラー、それに次ぐ面積を占める従属色たるアソートカラー、俗に「差し色」と称されることの多い強調色であるアクセントカラーの使いこなしが絶妙で、いたずらに色数を増やすことなく最低数の色にて造形物を盛り上げるスタイルにも長けている。
 そして最後に言っておきたいのは、このような才能に関してはぼくのような人間がどうのこうのアドバイスできるような余地はほぼゼロ状態だということだ。空回り状態に陥らない限りはこのまま放っておいてもすくすくとその才能は伸び続けるはずなので、この先の彼がどういった境地にまで達するのか、厳しくも温かい目で見守っていきたいと考えている。

text by Masahiko ASANO

さがたきっく1995年1月1日生まれ。小学生時代に『機動戦士ガンダム』『スター・ウォーズ』シリーズを通じオタク文化と出会うが、家庭内の方針であまり触れることのできないまま歳を重ね、美術大学に進み親の目から離れたことで溜め込みすぎた欲望が爆発、アメコミやアメトイの世界へ一気にのめり込む。ワンフェスとの関わりは大学1年生のときに一般参加者として来場し、「当時暇を持て余していた自分的には夢のような空間に思えた」と俄然興味を抱くことに。そして、美大入学後に覚えたスカルピーやNSPといったインダストリアルクレイで造形活動をスタートさせ、その後、'13年夏のワンフェスに先輩が主宰するディーラーから初ディーラー参加を果たし、'16年からは“Sculborns”名義でディーラー参加しはじめ現在に至る。ちなみに大学卒業後は3DCG関連会社へ就職。現在も同社の社員として働いているためワンフェスでの造形活動はサークル活動的な位置付けであるそうだが、「この先も、一歩ずつ少しでも多くの人に自分の作品を見てもらえるように経験を重ねていきたい」と語る。

ツイッター https://twitter.com/avenger_ken

WSC#105プレゼンテーション作品解説

© 2019 SagataKick




© 2019 SagataKick


Brains & Brawn

from WSCアーティスト自身による創作キャラクター
ノンスケール(全高260mm)レジンキャストキット


商品販売価格
オンラインイベント特別価格/27,500円(税込) ※オンラインイベント販売分30個限定
オンラインイベント以降の一般小売価格/33,000円(税別)


 その昔からクリーチャー(想像上の生き物や伝説の動物)造形に特化した造形作家は少なからず存在しましたが、「そうした先人たちとは明らかに異なる新たなセンスの持ち主が現れた」と言っても決して過言ではないと思います。美大入学後に覚えたスカルピーやNSPといったインダストリアルクレイにて造形活動をスタートさせ、その後就職した3DCG関連会社でデジタルモデリングの技術を習得、ワンフェスにてその実力を提示しはじめたSagata Kickこそがその人物です。
 プレゼンテーション作品である『Brains & Brawn』(Sagata Kick自身による創作キャラクター)は、彼のアメコミ&アメトイ好きな感性がストレートに爆発した、「作者がクリーチャーデザイン時に心に刻んだバックグラウンド(世界観設定)を一切知らなくとも、なんとなくストーリー性が見えてくるイラストレーション」の3D版作品的な逸品。ちなみにZBrushを駆使した全高260mmにも及ぶ巨大な作品であり、言ってしまえばいくらでも細部を作り込めるはずなのに、あえて抑揚を利かせディテール過多な作品にしていないところも注目すべきポイントと言えるはずです。

© 2019 SagataKick


※SagataKickからのコメント

 初めまして、Sagata Kickと申します。
 自分にとって『ワンダーショウケース』というものは雲の上の存在、といった認識だったものでこのコメントを書いているいまになってもイマイチ選ばれたという実感が湧きません。
 そんなわけで気の利いたコメントのひとつも思いつかないのですが、せっかくなのでこの場をお借りして普段造形時に考えていること……もとい、個人的なフェチの話でもしようかと思います。
 それはなんといっても「関係性萌え」です。キャラとキャラの関係性を想像し、バックグラウンドやいろんなシチュエーションを妄想するのがたまらなく好きなのです。たとえるならハン・ソロとチューバッカ、レオンとマチルダ、ボニーとクライド、いろいろ好きなバディはいますが説明がなくとも画を見ただけで伝わってくるふたりのあいだの空気感や繋がり……昔からその魅力にやられていました。
 造形をはじめてからなんとかそんな魅力をフィギュアで表現できないか、瞬間を切り抜くフィギュアという媒体の中でストーリーを感じさせる作品ができたら最高だろうな、といった気持ちで日々作業を進めてきました。とはいえ文字にするのは簡単でも実際にフィギュアとして完成させるのは難しく、ワンフェスに出続けて早7年……今回ようやく自分の理想に近い作品が作れたかな、と思います。
 そんなこんなでこのたびこの作品をWSCに選んでいただけたことはうれしいやら気はずかしいやらでいまでも不思議な気持ちです。また、これまで作品を買い支えてくれたお客さま、数ある造形作家さんの中から選んでくれたあさのさま、あれやこれやと助言をくれた先輩方への感謝を忘れず、今後とも作品に込めるポリシー同様「関係性」を大事にしていきたいと感じる次第でございます。