アーティスト紹介

WSC#109 Entei Ryu

[EnteiRyu]

2Dと3Dを自由に行き来することができる「風穴」
オタクカルチャーとストリートカルチャーとの融合

 「造形に着手する前までは、絵を描く機会のほうが多かったです。そしてそのことが、私が手掛けた造形物が“立体物なのに絵のように見える”とよく言われることに繋がっているのかもしれません。
 というのも、私にとって絵と造形には明確な違いが存在せず、スクランブルエッグか目玉焼きぐらいの差でしかありません。生業であるコンセプトアートの仕事では2Dも3Dも自分のアイディアを発露する手段であり、そこに境目は存在していません。2Dの構図感覚で3Dを用い、3Dの感覚で絵を描くということは自然な流れなんです」
 オンライン開催となった'21年秋のワンフェスに“EnteiRyu”名義にて初ディーラー参加を果たし、その圧倒的なセンスのよさと、明らかに日本人とは異なる感性を見せつけたRyu。現在は主にコンソールゲームのコンセプトデザイナーとして活動しており、アニメーションや映画のイラストレーションやデザインも手掛けている、言わば「異業種界のホンモノ」の参戦だ。
 もっとも、ある意味当然ながら彼女の遺伝子内には日本のオタクカルチャーが色濃く根付いており、「日本の漫画が好きすぎて、小学4年生の時に母親の手を引っ張って漫画の専門学校へ入学しようとした」という強烈なエピソードが存在していたりもする(ちなみにその騒動の際は同校の講師から「まだ若すぎる」という理由で入学を拒否され、母親にペンとデリータースクリーンを買ってもらうことでなんとか沈静化したらしい)。
 なお、プレゼンテーション作品となったCROCOGIRLに関して「いったいどういう時にこのような非日常的なデザインを思い付くのか?」と訪ねたところ、じつに説得力溢れるコメントが返って来た。
 「もしもデザインに何かユニークさがあるとしたら、それはおそらく、私の逆転したワークフローが原因かもしれません。スケッチからプランを作るのではなく、動物や女の子の好きな部分を先に造形し、それを自然に組み合わせたらああいうデザインが完成しました。
 いま思えば、仮に“ワニ頭かぶりの少女”というタイトルでデザインをしていたら、ワニの部分をここまでリルに造形していなかったかもしれませんし、また同時に、特徴も失われていたかもしれません」
 普段からファッションにも興味があり、コロナ禍の最中でもネットを使いストリートファッションを研究していたことがこんなにもスマートな作品を産んだのであろう。「日本の実力派系造形作家もうかうかしていられない」という決定的事象を体現した才能の登場だ。

text by Masahiko ASANO

えんてい りゅう1993年12月4日北京生まれ。幼少期から日本のアニメや漫画、ゲームをなどにどっぷりと浸った日々を過ごした結果、その影響で、ちいさな頃から漫画を描きはじめ、中学生時代からはペンタブレットを使ったイラストレーションの創作活動をスタート。その後、北京工業大学へ入学して建築を専攻。17年の卒業後に来日して東京大学の大学院へ入学し、建築専攻で勉強しながら同時に、フリーランスとして東京のゲームや映像業界でコンセプトアートの創作にも従事しはじめる。なお、いま現在名刺に書かれている肩書は「アーキテクト」「コンセプトアーティスト」「デジタルスカルプター」となっており、活動拠点を東京に置きつつ、日本はもちろん、海外のゲーム会社/CGアニメーション会社などもクライアントとしている。ちなみに今後の造形活動に関しては「造形スキルが磨かれることで生業としているコンセプトアートの表現が効率的になり、より魅力的な作品を作ることができるようになる」と考えているため、「ワンフェスにディーラー参加する際には最低でも毎回1点は新作を発表する頻度で造形活動を続けていきたい」と語る。

ツイッター https://twitter.com/badzrlwt

インスタグラム https://www.instagram.com/badzrliuwt/

BOOTH(通販サイト) https://enteiryu.booth.pm/

WSC#109プレゼンテーション作品解説

© EnteiRyu


CROCOGIRL

from WSCアーティスト自身による創作キャラクター
1/10スケール(全高210mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格20,000円(税込)
ワンフェス終了後の一般価格23,100円(税込)

完成見本作成/面球儿(Mianqiu-er)


 「……いったいコレはどういったシチュエーションの作品なのだろう? このストリートカルチャー系の服を着たファッショナブルな女の子は、なぜこんなにもリアルなワニの尻尾と頭部を体に装着しているのだろう?」。おそらく、そういった生真面目な角度からこの作品へ対峙してしまった人は、ある意味その時点ですでに「負け」なのかもしれません。北京出身で、現在は東京ベースにて世界中のクライアントを相手に、映画やアニメーションなどのコンセプトデザイナー(スタイルディレクション、キャラクターやクリーチャーのデザイン、イメージボード、コンセプトモデルの造形等)を生業としているRyuからすれば、今回プレゼンテーション作品となったこの『CROCOGIRL』は「考えるな、感じろ!」(映画『燃えよドラゴン』劇中におけるブルース・リーの名台詞)を地で行く造形物だと言うことができるかもしれません。
 実際に、この作品に関しては「ここがこう優れている」という感じで部分部分を切り取って考えはじめてしまうとその魅力に辿り着くのは不可能と言っても過言ではなく、ある意味においては「造形作品を読み解くリテラシーが問われる作品」と言えるはずです。

© EnteiRyu


© EnteiRyu


※Entei Ryuからのコメント

 初めまして、Entei Ryuと申します。この度は『ワンダーショウケース』に選出いただきありがとうございます。このような栄誉をいただいたことは,去年からワンフェス初参加の新米原型師の私にとって恐縮ではありますが、同時に大変光栄に思っています。
 普段はゲームや映画のコンセプトアーティストという仕事でずっとデジタルなものを作っているのですが、初めて3Dプリントをした時から「自分が作った子たちがやっと三次元で実体を持つようになった!」という感動があり、それがガレージキット製作をはじめたきっかけになりました。
 人間としての部分で言えば、元々ちょっとコミュ障で、コロナのリモート2年間は仕事もほとんどは海外からの依頼でさらに引きこもり状態が続き、いつからかサイバー思念体のような生活でした。ただしワンフェスに参加したことで、自分がリアルに生活しているところでガレージキットと造形に同じ情熱を持った人たちとの繋がりを感じれるようになりました。この度WSCに選ばれ、こんな素敵なプラットホームで展示され、それから関係者様方のお話をうかがう機会に出会えて、大変貴重な経験でした。
 今回のWSCで選出されたCROCOGIRLはいままでの作品の中でもかなりリラックスした気分で作ったものです。複雑なポーズと構図は使わず自分の好きな生き物とキャラクターの要素を使い化学反応するように自然に成長させたものです。今後も「獰猛ガール」(仮)シリーズを作り続き、いつかワニっ子、トラっ子、サメっ子を並べられるようにしたいですね!
 今後も原型師として活躍していきたいと思います。