アーティスト紹介

WSC#112 塚尾 吼

[鋼人商会]

デジタル環境を利用し先行者に追いつけ追い越せ!
一見地味だが「考え抜かれた可動系機動歩兵作品」

 いま3Dツールを使った創作ロボット系造形作家のあいだで、ちょっとしたざわつきが生じている。
 かつてはキャラクターモデルと縁が遠かったハセガワが、WSC#060 小林和史(モデリズム/第24期2012年夏選出)のメカトロウィーゴをプラスチックモデルとして大々的にシリーズ展開。さらに、「ウィーゴに続け!」とばかりにコトブキヤがWSC#097 MiZ(MARUTTOYS/第38期2019年冬選出)のTAMOTUらをプラスチックモデル化。そしてそのどちらも「3DCG作家とのコラボレーション作品」という看板を掲げ、小林やMiZの名前を前面に押し出した販売促進を繰り広げているのだ。
 つまり、ワンフェス会場で発表された、3Dツールを駆使し製作された映像作品などのバックボーンを持たぬ創作ロボットが、運がよければプラスチックモデル化される時代が到来したのである。この「にわかには信じ難い事態」に対し、3Dツールを使っている創作ロボット系造形作家たちがざわつかずにはいられない気持ちはよく分かる(実際のところ、『ワンダーショウケース』のレーベルプロデューサーを務めている筆者も「ざわっ」とした感触を抱いているのだから)。
 そんな環境下で可動系創作ロボット製作に対し、真摯にチャレンジし続けているのが塚尾 吼だ。
 塚尾曰く「どうしてもウィーゴのインパクトが強すぎて、少しでもウィーゴに似た線や面が入ってくると“ウィーゴに似ていますね”と言われてしまうのが厳しい」と苦笑するが、内部フレームをFDM式プリンターで出力し、ナベネジとトラスネジで組み上げていくアイディアがまず秀逸だ(つまりFDMプリンターで成形した熱融解積層フィラメントの弾力性を活かし、内部フレームはネジ留めだけでほぼ組み上げることができる)。
 そして、そのフレームに外装甲パーツ(レジンキャスト製)をほぼ無接着で組み付けていくと作品が完成するわけだが、そもそも「学生時代はメカニックデザイナーになりたかった」という経歴を持つだけに、そのパワードスーツのデザインもなかなか目を見張るものがある。シンプルなデザインながら、非常に奥深い味があるのだ。
 いずれにせよ3DCG環境が一般化したいま、造形作家側にもたらされた可能性は無限大に近くなったと言える。プラスチックモデル化はもとより、プラスチックモデル化とはまた違った道を歩むことで塚尾が化ける可能性も充分あるはずだ。それが訪れる日を信じ、これからも続々とラインナップを増やし続けてほしいと思う。

text by Masahiko ASANO

つかお ほえる1985年7月4日生まれ。小学校低学年時に友人間でSDガンダムが流行ったため買い集め、小学校中学年で第二次ミニ四駆ブームが到来した際にみんなが「速さ」を求め改造をする中、「剥がれる紙シールは嫌だ、漫画やパッケージのような色に塗りたい!」と感じたのがことのはじまり。中高時代にはガンプラ製作にどっぷりとハマり、その後、メカニックデザイナーになりたいためにマンガ アニメ専攻がある大学へ進学、2年ほど関西のガレージキットイベントで活動したのち、2011年より“鋼人商会”名義でワンフェスでのディーラー参加をスタートしはじめる。ちなみに2016年くらいまではアナログで原型を製作していたが、3DCGモデリングに切り替えた理由は「造形の主流がすでに3DCGに傾きつつあると感じた」こと、「ロボットの図面を3DCGで作ることで、自分の世界観内でロボットを設計した技術者の気分に浸りたいと思った」こと、「手作業よりも短時間で作り込め、破損も少なく、考えた構造をそのまま再現できると感じたこと」がきっかけだという。

WSC#112プレゼンテーション作品解説

© 塚尾 吼




© 塚尾 吼


『doll of machinery TO-TE AGGRESS』

from WSCアーティスト自身による創作タイトル『Project RABBy』
1/1スケール(全高105mm)マルチマテリアルキット


※大変恐縮ですが、諸般の事情により本プレゼンテーション作品は展示のみで販売はいたしません。各WSCアーティストのブースにて直接お買い求めください


 「ずいぶん昔の話となりますが、過去のWSC作品を見た際に“……いままで雑誌で見たフィギュアよりもなんかすげぇ!”と感じたことを覚えている」と語る塚尾。その「なんかすげぇ!」という感想の順番が、とうとう彼に巡ってきたと考えるべきでしょう。
 「自分の作風は、近年のロボットデザインによく見られる多くのトゲトゲが多数あったり複雑な面構成で構成されているものとは逆に、少ない線で独自性を作り勝負できているところ」とのことですが、プレゼンテーション作品となる自作デザインの『doll of machinery TO-TE AGGRESS』は、その言葉を裏付けるように必要最小限の線と面で構成されているのが特徴。3DCGを用いながら、アナログ的な心地よさが絶妙に漂う作品です。「面の流れ、シルエットの気持ちよさを心がけ、さらに、組み立て時になるべくしんどくならないようにすることも念頭においています」と語るとおりの仕上がりを見せています。

© 塚尾 吼


※塚尾 吼からのコメント

 はじめまして、塚尾 吼と申します。このたびは『ワンダーショウケース』に選出していただいたこと大変光栄に思います。
 私は学生時代にメカデザイナーになりたくていつか自分の描いたメカやロボがフィギュアやプラモデルになることを妄想していましたが、自分で立体化しガレージキットで販売したら実現すると考え、いつの間にか造形するほうがメインとなってしまい、いまでは株式会社ラッキーワイドという造形会社でデジタルやアナログ技術を駆使しながらものを作ることを生業としています。
 ワンフェスに参加する中で、5年くらい前に「時代に置いていかれる」「若い人たちが進出してきている」という感じで悩んだ時期があったのですが、同世代で活躍してる人たちを研究した結果、「小学校の時に流行ったものをいまでも続けている人や、自分が好きなものに対し素直な人が結果を出している」ということに気付かされました。私はそういったことに対して斜に構えていたというか素直じゃなかったな、と。それまでの自分が作ってきたものは表面的なもので、自分の核の部分が出せていなかったような気がします。
 そういったことに気付いたあとはワンフェスへ参加するにあたって、「自分の生きてきた中で培って来たもの、好きなものを全部ぶつけよう」と意識して造形を行っています。また、大学時代の講師に頂いた「ペンタッチは書道のトメハネと同じ感じ」というアドバイスがいまでは造形だけでなく生きていく上での教訓みたいになっています。こういったことなどがいろいろ上手いこと作用した結果がWSC選出として現れてくれたのかなと思います。
 もっともただそういったことだけでなく、塚尾 吼の作品を購入していただいた方、応援してくださっていた方々、大学からの腐れ縁の友人たちなど支えてくださる方々がいたことでの結果でもあると思います。ありがとうございます。感謝。
 最後に、これだけは明日の自分のためへのけじめとして言わせてください、小学校の入学式にお前と出会ったこと、毎日のように遊んだこと、たくさんのお思い出のお陰で塚尾 吼が形成されました。いまはまだそちらには行けないけど、こちらでまだまだもがき続けてやろうと思います。唯一の親友へ。ありがとう。