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WSC#116 まっつく
[ArCray]
「なぜいまごろこのキャラクターをこのサイズで!?」
湖川友謙キャラを2020年代に攻略した奇才の登場
アニメ絵系のキャラクターフィギュアについて語る際、「まるでアニメやゲームの画面から飛び出してきたような」というたとえ話がよく用いられる。2020年代に入った現在、実際に「うん、うん、まさしくそんな感じ!」と首を縦に振ってしまうようなキャラクターフィギュアはごまんと存在するが、逆の見方をすれば、90年代以前のタイトルにおけるキャラクターフィギュアは、いわゆる立体的正解値を見い出させることなく放置されたままのタイトルが多い。分かりやすい例を上げるならば、かの『機動戦士ガンダム』におけるセイラやフラウ等の立体的正解値を導き出した造形物は未だ存在しないのだ。
が、そうした環境の中で突然、80年代初頭に映像作品化された『伝説巨神イデオン』に登場するハルル・アジバを信じ難いクオリティで立体化した、“まっつく”と名乗る特異な造形作家が現れた。
それまでのまっつくは12年からスタートした「ほぼ1/12スケールの、写実的造形に基づくJK(女子高生)フィギュアシリーズ」で一部に知られていたのだが、小柄なJKフィギュアシリーズの倍もある1/6スケールで突如展示されたそれは、率直に言えば違和感バリバリ状態。どう見ても、どこから眺めても、それらを同一人物が造形したとは思えなかったほどだ。
しかも、最初に造形された対象が脇役キャラに近いハルル(地球人と敵対するバッフ・クラン宇宙軍総司令ドバ・アジバの長女)であったことがその違和感に拍車をかけた。「なぜいまごろこんな巨大なサイズで、癖が強く好き嫌いがはっきり別れるイデオン キャラを?」「なぜよりにもよって造形対象がハルルなんだ!?」といった具合である。
ちなみにイデオンのキャラクターデザインや作画監督を手掛けた湖川友謙は、圧倒的なデッサン力や“あおり”の構図を特徴とした超実力派アニメーター。それだけに、見様見真似だけでは湖川キャラの立体的正解値を導き出すことは相当にハードルの高い行為なのだが、まっつくはそれを処女作で見事クリアしてしまった。その規格外さ具合に対し、ただただひたすら驚くしかない。
ちなみにイデオンに続いて着手したのが『宇宙の騎士テッカマン』シリーズ(75年作品)で、ここでもまた立体的正解値を見い出しにくい吉田竜夫キャラに挑戦し、見事それを攻略している。
「80年代近辺のアニメ作品が大好きで、その時代のキャラならばとにかくなんでも作りたい」と語る、奇才肌の新たな造形作家が現れたと言ってよいだろう。
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text by Masahiko ASANO |
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まっつく●1969年3月26日生まれ。幼少期は漫画やアニメの落書きをする日常を過ごし、中学生からはキャラクター系のプラスチックモデル製作が趣味に加わる(たとえばバンダイ製 1/12『うる星やつら』シリーズのクオリティに満足できず、結果、シリコーンゴムやレジンキャストという高額でハードルの高い造形素材を用いることに繋がっていく)。その後、上京して工業デザイン科のある専門学校へ進学、同校に通っていた際に友人と共にピンポイント的にワンフェスへ初のディーラー参加を果たすも、就職後は仕事が猛烈に忙しくオタク系の趣味から一旦離れることに。が、そうして20年ものあいだ沈黙状態に陥っていたものの、“MK2.”名義にてディーラー活動を再開。以降、写実系JKフィギュアを続々と発表し「謎のJKフィギュア系ディーラー」として一部の人々から注目を集める。なお、現在は7年前に脱サラを果たし、翌年地方への移住を機に17年夏から友人との合同卓で新ディーラー“ArCray”名義へ変更。造形作家一本にて生計を立てている。
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WSC#115プレゼンテーション作品解説 |
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『ハルル&カララ』
from TVアニメーション『伝説巨神イデオン』
1/6スケール(ハルル/全高300mm、カララ/全高200mm)3Dプリントレジンキット
※大変恐縮ですが、諸般の事情により本プレゼンテーション作品は展示のみで販売はいたしません。各WSCアーティストのブースにて直接お買い求めください
地球人を完全な敵と見なす冷徹無比なハルル・アジバと、地球人との和平を目指す慈愛溢れるカララ・アジバ。容姿こそよく似た姉妹ですが、その性格は正反対……といったアニメーションとしての話は置いておくとして、まずは何より、ある種のカルト作品として目されている『伝説巨神イデオン』の敵側女性キャラクターが2020年代クオリティで生み出されたその事実にまずは驚くべきでしょう。
まっつく自身は「ハルルのピチピチなボディスーツが上手く表現できた」とディテールの再現にしか触れていませんが(実際にハルル以外のフィギュアも、どれを取っても服のシワの入れ方が抜群に上手い!)、そうしたディテールもしっかりとしたデッサン力があってのこと。若いワンフェス参加者はこうした1980年代や1970年代におけるキャラクターの存在すら知らないと思いますが、「いまここでちょっとした革命が起きている」と思っていただきたい傑作です。
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※まっつくからのコメント |
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初めまして、まっつくと申します。この度『ワンダーショウケース』に選出していただき(いまでも実感がないのですが)、造形家として大変光栄に思っております。
ワンフェスには会場がまだ都立産業貿易センターだった時にディーラーで参加しています。海洋堂のショップが道玄坂を上った先にあった頃で、当時私は上京したばかりの専門学校生でした。それから幾年月、Zbrushと3Dプリンターを用いてデジタルでフィギュアを自作できるようになったことがきっかけとなり(テクノロジーの進化に感謝!)、2012夏のワンフェスに出戻って、現在に至っております。
自転車しか知らなくて初めてバイクで走ったら「エンジンの付いてる乗り物すごい! めっちゃ速くてずっと走っていられる!」というのは高校の時に50ccのバイクをバイトで買って乗った時の気持ちですが、自分にとってデジタルでの造形はそんな感覚に近いのかもしれません。
2012夏からリアル造形でオリジナルのJKフィギュアシリーズを出展していますが、今回、選出していただいたハルルとカララは、80年代初頭のアニメ『伝説巨神イデオン』のキャラクターになります。私は模型用の塗料やレジンキットの匂いだけで、当時、アニメの模型を夢中で作っていた少年の頃の気持ちに浸れてしまうので、うっかり(!?)これらのキャラを造ってしまったのはある意味必然だと思っています(そしてほかにもまだまだ思い入れのある造形をしたい作品があるのは幸せなことです)。私にとって、子供の時に好きだったものがいまでも大切であることを改めて感じています。
今後もより高いモチベーションで造形を続けてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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