アーティスト紹介

WSC#118 tona

[ハーブ工房]

いまごろ「ワンフェスの真実」を知った新参者が
いきなりガレージキットの最前線に立てた理由

 tonaがワンフェスの存在を知ったのはつい最近、2022年の夏だったという。ワンフェスの真実を一切知らずに一般参加してみたところ、一般人が作った決して安くない未塗装未組み立てのガレージキットをよろこんで買う市場が存在するという事実、また、ディーラーが製作しているのは人気キャラクターだけではなく、おそらくは自分が好きなものを高い熱量でキット化しているということに驚きを覚えたという。そして同時に、「これは自分にもできそうだし、自分が作ったガレージキットで誰かがよろこんでくれるのならばぜひ試してみたい」というスイッチが入り、そこから1年後の2023年夏のワンフェスからディーラー参加を果たすこととなった。
 そもそも自力によるゲーム開発で培った3Dモデリングスキルを何かに活かせないかとVRChat向けアバター装飾アイテムのデータ販売を開始していたのだが、売れてはいるものの購入者からのリアクションが届かず、いまいち「誰かのためになっている」という実感を得ることができていなかった時期でもあった。それゆえに自身が中学生時代にハマっていたゲーム『アーマード・コア2』の進化版的存在『アーマード・コア フォーアンサー』のArms Fort アンサラーを造形対象としてセレクトし、3Dゲームのモデル製作という理由からポージングやCG/動画作成が可能なBlenderを使った原型製作をスタート。他の人が敬遠するようなハイディテールの高難度モデルの作り込みに挑戦すると同時に、設定資料集では描かれていない羽の接合部をあまり複雑にしないため、ゲーム画面のスクリーンショットを200枚以上撮りまくりキットとしてあまり複雑にならないよう工夫を凝らしたという。
 また、彼は国内3Dプリンター代理店であるSK本舗の公式広報も担当しており、パーツに求める要素に応じてパラメーターを絶妙に変化させているそうで、3Dプリンターの普及や同社製品の販促にも協力。単なる新参ディーラーとは異なった道を早々に歩みはじめている。
 なお、今後は「“複”業(副=サブではなくどちらも主力)として造形作家としての道を歩んで行きたい」と誓っており、3Dモデルを起点とし、リアルでは3Dプリンターでの出力、バーチャル面ではARやVRのデータ販売の領域にまで踏み出したいと考えているという。まだまだワンフェス参加ディーラー初心者とも言えるが、ここまで明確な意思を持って早々に頂を目指しはじめたチャレンジャーには拍手を持って送り出したいと思う。

text by Masahiko ASANO

とな1986年8月29日生まれ。小学生のころはSDガンダムのプラスチックモデルにハマっていたものの、中学2年生のとき『アーマード・コア2』に出会い、パーツを組み替えて機体性能を調整し自分だけのマシンを作るという同作品のコンセプトに衝撃を受け、ノートに自作のパーツを描いて授業中でもアーマード・コアのことばかり考えるようになっていく。大学を卒業して就職し、仕事に余裕が出はじめた2015年ごろ、子供のころ熱くハマっていたアーマード・コア ライクなゲームをスマートフォン向けに開発しはじめるも、開発スピードの遅さとスマホのスペック向上や開発ソフトウェアの高度化に付いていけなくなり6年続けていた開発を中止。心に渇きを覚えることとなってしまう。そんな乾いた生活を送っていた2022年夏にX(旧Twitter)でワンフェスの存在を知り、一般参加したワンフェスにて衝撃を受けることに。そして2023年冬のワンフェスより“ハーブ工房”名義でディーラー参加をスタートさせ、いま現在はファンからの温かい反応により心の渇きを取り戻した日々を送る。

X(旧ツイッター) https://twitter.com/tona_st3939

WSC#118プレゼンテーション作品解説

© 1997-2008 FromSoftware,Inc. All rights reserved.




© 1997-2008 FromSoftware,Inc. All rights reserved.


『Arms Fort アンサラー』

from プレイステーション3、Xbox 360用ゲーム『アーマード・コア フォーアンサー』
ノンスケール(全高220mm、全長280mm)3Dプリンターレジンキット

※大変恐縮ですが、諸般の事情により本プレゼンテーション作品は展示のみで販売はいたしません。各WSCアーティストのブースにて直接お買い求めください


 Arms Fort アンサラー(『アーマード・コア4』の続編『アーマード・コア フォーアンサー』に登場する、全長2kmにも及ぶ巨大兵器)は一応設定資料が存在するものの、細部までそのすべてを読み解くのは不可能。かといって劇中におけるそれは死角になり見えぬ部分も多いゆえ、これを立体物として造形するために、tonaは200枚を超えるスクリーンショット画像を撮り、1時間半にも及ぶゲームプレイ動画を録画することによって、アンサラーの全容解明に努めたといいます。
 さらに、元のモデルが有する神々しさと不気味さの再現を試みながら、キットとして作りやすいものになるように心がけ、非常にこまかいディテーリングを施しつつも、各所のバランスを擦り合わせる行為をし続けた結果がこの成果物となりました。「3DCGでモデリングしているのだから精密再現は簡単だろう」と思われている方もいらっしゃるでしょうが、じつはその裏では恐ろしいほどの血の滲むような努力が存在していたのです。

© 1997-2008 FromSoftware,Inc. All rights reserved.


※サポート材を切り落とし、3Dプリンターレジン製のパーツを組み上げた状態。通常のレジンキャストキットならば金属線を用いるような細いパーツも、そのすべてが3Dプリンターレジンにて構成されているのが分かるはずです(専用ベースパーツも付属しています)

※tonaからのコメント

 初めまして。ハーブ工房のtonaと申します。この度は『ワンダーショウケース』へ選出いただきありがとうございます。ワンフェスディーラーをはじめて一年の新参者である私にとって大変恐縮であると同時に、非常に光栄に思います。元々個人ゲーム開発を志して身につけた3Dモデリングスキルの活用場所を探していた時に出会ったのが、ガレージキットとワンフェスでした。各々が自分の好きなものを立体化し表現するその文化に惹かれ、「自分も参加したい!」と思ってディーラーをはじめたのがきっかけです。
 3Dプリンターの魅力に取り憑かれたのも同時期で、その可能性に魅了されました。立体化の楽しさに没頭すると同時に、高精細な出力を求めて研究に明け暮れました。スライサーでの各種設定に加え、レジンの素材、温度などの要素を掛け合わせて、満足する造形になるまで試行錯誤を重ね完成したのが今回の作品です。
 選出いただいた『Arms Fort アンサラー』はアーマード・コアシリーズに登場するボス敵です。作中では全長2kmを超える巨大かつ複雑な戦闘構造物。それを25cm四方にリサイズしつつも初見で対峙する時に感じる恐怖感や圧倒的な存在感を表現することを目標として造形しました。たなびくボロボロのマントを模した羽のトラス構造や連なる砲台、目玉のようなジェネレーターはとくにこだわり抜いた部位のため、ぜひ注目していただければと思います。
 これからも「キット化されていない人気キャラを、あなたの手に」を目標として活動していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
 最後になりますが、イベント関係者の皆さま、いつも応援してくれる方々、切磋琢磨できるディーラーの仲間たちに心から感謝致します。