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WSC#119 芳雛
[ひなもり]
「好きになったから」という純粋な想いに基づく造形
ガレージキットスピリッツの原点回帰的な存在感
このキャラクターを知っている人ならば、その再現度の高さは一目瞭然だろう。だがしかし、「なぜいま『釣りキチ三平』なのか!?」という疑問は残るはずだ。
同作品は1973年から10年間、『週刊少年マガジン』にて連載された矢口高雄による人気コミックである。連載当時は大いなる人気を誇り同誌の看板作品であったが、連載終了から早40年あまり──当然ながら、その存在を知らないワンフェス参加者のほうが多いに違いない。
しかし芳雛は別に奇をてらったわけではなく、大変純粋な「三平くんを好きになったから」という想いを造形対象とした理由として語る。1975年のイシダイ編がコミックを読むきっかけとなったそうで、それまで抱いていた「がさつな田舎っぺ」というイメージが一瞬にして払拭され、「かわいくてちょっとカマトトな守ってあげたい幼気(いたいけ)な少年」へと印象が激変。こうして1975年当時に描かれた三平に心を奪われた彼女は仕事中も隙あらば三平を落書きをし、家に帰ってPCで描き、ZBrushでモデリングをし、Blenderでアニメ調のモデリングもして……と、完全に三平の虜に。
そして新型コロナウィルス自粛明けでようやくワンフェスに参加できることになった際、毎回売り上げがよいわけでなく完売するときはさっと完売、売れないときはさっぱり売れないジェットコースター状態が続いていたため、「ならば最後は売れようが売れまいがとびっきり自分の好きなように作って玉砕してやる!」という意気込みにて三平を造形したところ、速攻完売& SNSで大いに話題になるといううれしい誤算が発生。とにかく「自分の中の三平を作る」ということ以外は考えず、「誰にどう見られるか」といった邪念を断ち切り、「自分が三平をどう好きでどんな部分が好きかを一発で見て分かるようにする」ということを念頭に置き造形した結果が「これ」である。Gペンで描かれた原画の流れのよいタッチを的確に再現、わらじや麦わら帽子は3Dモデリングでありつつも、網目のパターンは大まかに配置したのちひとつひとつ手作業で変形させていくという「手で造形するよりも面倒臭く手間のかかる方法」を採用。「好き」という想いをそのままカタチにした、ガレージキットスピリッツを地で行く作品が完成を見た。
なお、プロ原型師の道を歩みはじめた芳雛は必ずしもこうした「好き」という気持ちだけで仕事を続けることはできぬはずだが、ワンフェスという特別な場では、このような愛情に基づく作品を発表し続けていってほしいものだ。
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text by Masahiko ASANO |
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よしひな●生年月日非公開。幼少期より絵を描くことが好きだったため、学生時代は毎日アニメを見て絵を描くような生活を続ける。中学生のころに模型雑誌を通じてガレージキットの存在を知り、高校在学中にはファンドで『ドラゴンボール』のベジータや『餓狼伝説』のビリーなどをスクラッチビルドした経験を有する。また、ほぼ同時期にワンフェスの存在を知り、「自身が作ったフィギュアを発表できる場に出てみたい!」と強い憧憬を描く。そして2010年夏、“JAMMING OFF”名義にて初のディーラー参加を果たし、2017年冬までほぼ毎回ディーラー参加を続け、主にアニメの少年キャラクターを製作し続けることに。そして2017年夏から現在までは、個人ディーラー“ひなもり”として参加。2019年5月からはZBrushを導入してデジタルモデリングによる原型製作へ移行し、製作スピードの向上に努めはじめた。なお、WSC選出時は受付事務の仕事に就いていたものの、いま現在はすでにプロ原型師としての道を歩みはじめている。
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WSC#119プレゼンテーション作品解説 |
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『三平くんと魚紳さん』
from コミック『釣りキチ三平』
ノンスケール(三平くん/全高190mm、魚紳さん/全高245mm)レジンキャストキット
※大変恐縮ですが、諸般の事情により本プレゼンテーション作品は展示のみで販売はいたしません。各WSCアーティストのブースにて直接お買い求めください
ワンフェスへディーラー参加しはじめた動機を、「自分がこの世でこのキャラクターがいちばん好きだという証明をすることにあった」と語る芳雛。以降、アニメの少年キャラクターを中心に作品を発表し続けてきましたが、ひとつの通過点ではあるものの、現段階における明らかなターニングポイント作となったのがこの三平くん(と魚紳さん)ということになります。
現代におけるコミックなどの少年キャラクターとは明らかに異なる「田舎暮らしの元気少年」という設定&作画を素直に採り入れ、その姿を変にデフォルメすることなくひたすらストレートに再現。そうした結果、『釣りキチ三平』という40年以上も前の作品を知る世代から火が点きはじめ、その後、釣りキチ三平という存在をまったく知らぬ若い世代までもが俄然芳雛の作風やその志をマークすることへと至りました。彼女のそのまっすぐな気持ちがそのまま造形に反映された本作は、ガレージキットというもののあり方を改めて問い質す作品と化しているはずです。
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※芳雛からのコメント |
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初めましての方もご存じの方もこんにちは! 芳雛と申します。
私は自分が好きになったキャラクターをどういうふうに好きでどこが好きかを思うがままに作るスタイルで、ワンフェス初参加当初から現在に至るまで貫いています。
元々絵を描くのが好きでしたが、自分で作った版権キャラクターフィギュアを許可をいただいて販売できるイベントがあると知ったのがワンフェス参加のきっかけです。
フィギュアはさまざまな角度から見たり触ったりすることができるのが最大の魅力であり、二次元から三次元に存在させることができるのが何より楽しいのです。そこに自分の思いを乗せて公の場で発表できるなんて、こんなにすばらしいことはほかにはありません。
また、三平くんや魚紳さんたちをワンフェスで発表するにあたって原作者様である矢口プロ様には版権を許諾していただいた上、ブログ等で情報発信までしていただいて大変お世話になり足を向けて寝られません!
なお、ガレージキットはイベントで売って終わり、ではなく組んでくださった方のアンサーをいただけるキャッチボールだと思います。このガレージキット文化の醍醐味はなかなか味わえないものですので、未来永劫続いてほしいです。
最後に、許諾してくださった版権元様、キットをご購入くださった方々、イベント当日やSNSでお声がけくださった皆さま、ずっと見守ってくれた友人・家族、ワンフェス参加の最初の一歩を手助けしてくれた地元の恩人の皆さま……本当にたくさんの方にお力添えいただいた結果の『ワンダーショーケース』選出だと私は思います。この場をお借りして心より御礼申し上げます。
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