アーティスト紹介

▲施工デザインがすでに完成の領域に達してしまっているため、どう撮っても毎回同じような写真しか撮れないのが残念(?)な今回のWSCブース。もっとも、WSC#081 kuniのプレゼンテーション作品『空母ヲ級』ver.Kの販売ができなかったため、空母ヲ級に関しては少々目立つデコレーションを施してみました


■というわけで前回よりWSC公式Webサイトに発表の場を移したWSCプレゼンテーション報告書ですが(それ以前は『ホビージャパン』と『モデルグラフィックス』という模型雑誌に「広告出稿」というかたちで掲載していました)、今回はその2回目となります。
 前回も同様の旨を記しましたが、このWSCプレゼンテーション報告書は、ワンフェス当日にWSCアーティストたちの作品がどのような売れ方をしたか=信任投票をされたかを赤裸々に報告すると同時に、「ほぼすべてのアマチュアディーラーにてどんどん売り上げが低下していっているというレジンキャストキットのリアルな現在(いま)」をアマチュアディーラーの皆さんと共有していくためのリポートだと考えてください。
 そして、まずは何より、今回もまたWSCブース(幕張メッセ 4ホール内)へ足を運んでくださった方々、誠にありがとうございました。
 スタッフ一同、謹んでお礼を申し上げます。


■それではイキナリですが、毎度恒例の隠し隠さずの赤裸々な売り上げ報告から。
 WSC#081 kuniのプレゼンテーション作品『空母ヲ級』ver.Kに関しては事前の告知どおり「本作品おいてはワンフェス会場での展示、及び、WSC公式Webサイトへの掲載のみ」となってしまったので、販売なし=販売個数0個。
 WSC#082 Chilmiruの『「化猫陰陽師」月影』は、ワンフェス会場販売分100個限定+何かのトラブル用に持ち込んでおいた予備の4個を足した104個の販売=完売。
 WSC#083 隙間の人の『中川凰蘭』は、会場販売分100個限定(当日版権扱いのみ)で、29個の販売という結果に終わりました。
 kuniのプレゼンテーション作品である『空母ヲ級』ver.K、つまりは『艦隊これくしょん -艦これ-』に関する作品に関しては版権取得のハードルがさまざまな意味で高くこういう特殊なプレゼンテーションとなってしまったわけですが(ちなみにこれまでのWSCの歴史において「プレゼンテーション作品の販売が一切なし」というのは初のことです)、そのあたりは「大人の世界の事情」が複雑に絡んでいるので、たとえ「ワンフェス会場での展示、及び、WSC公式Webサイトへの掲載のみ」というかたちででもkuniの才能や作品をWSC公式Webサイトを通じWSCの史実に残せたということに対し、じつはレーベルプロデューサー的には充分満足であったりもします。
 また、創作キャラクター作品であり、しかもワンフェス特価であっても15,000円もするChilmiruの『「化猫陰陽師」月影』が完売したという事実には大いに驚かされました。
 聞けば、Chilmiruの個人ディーラーである“うろこもん”で販売した新作も、●万円もする巨大な作品なのに会場に持ち込んだ●個すべてが完売したとのことで、Chilmiruに関しては今回のワンフェスにて完全にブレイクした感がありますね。こういう話を聞くと、WSCのレーベルプロデューサーとしては本当にうれしい限りです。

▲某テレビ局からのインタビュー取材を受けるWSC#082 Chilmiru。彼女は顔出しNGゆえ、こんな手作りのお面を使ってのインタビューとなりました。また、WSCブースではその造形力の高さのみならず、『「化猫陰陽師」月影』を通じChilmiruの彩色センス&塗装技術の高さに驚いた人も多かったはずです


■また、WSC#083 隙間の人の『中川凰蘭』が「当日のみ100個限定」という取り扱いであったのに対し完売に至らなかったことには(ここのところ、会場に持ち込むプレゼンテーション作品数はどれも100個でほぼ固定しているわけですが、その100個が完売へ至ることはほとんどありませんが)、ある意味「思わぬ衝撃」でした。原作の知名度は充分にあり、そして“造形作品”として見た場合にはまちがいなく超一流品。その条件にあってのこの意外な結果はより深く分析する必用があるでしょう。
 ガレージキットシーンが日々変化を続けているように、購買層の“ツボ”も同じく変化を続けているであろうことは推測できうることですが、「これはよいものだ!」と自信をもって作品をプレゼンテーションするWSC関係者としては、「あぁ、これがいまのリアルな“時代”感なのかな……」と感じずにはおれないのも正直なところです(かといって、安易に時代の風潮に流されていくのはもちろんWSCの本意ではありませんが)。
 ちなみに「……っていうか、ガレージキットってそもそもがそういうものなんじゃないの?」と考えている方のほうが多いかとも思いますが、決してそんなことはありません。「原作はよく知らないけれど、造形がとにかくおもしろい、壮絶に上手いから思わず買ってしまった」という人は、いまから10数年前には確実にもっとたくさんいました。WSCという企画を17年続けてきたからこそ、その変貌ぶりには人三倍以上敏感なつもりです。
 それゆえに、この問題は「WSCだけが抱えている問題」というよりは、やはり「ほぼすべてのアマチュアディーラーにてどんどん売り上げが低下していっているというレジンキャストキットのリアルな課題」なんでしょうね。
 そして、隙間の人は「完売どうこう」に振りまわされることなく、今後もより一層精進し続けて行ってほしいと思います。貴方の才能はまちがいなくホンモノですから。

▲WSC#083 隙間の人のプレゼンテーション作品『中川凰蘭』がZBrushによる造形である旨はアーティスト解説内で触れていますが、じつはWSCのプレゼンテーション作品として採り上げるにあたり、顔の造形(鼻を頂点とした面構成)にかなり大がかりな修正が施されていたりします。明らかに修正後のほうがモアベターでしょう?
© 浅野いにお/小学館


■というわけで、今回はChilmiruの完全ブレイクだけがやたらと突出してしまった感のあるWSCですが、ただし、「……いつかは絶対にWSCアーティストとして選出されたい!」というアマチュアディーラーの造形作家がここのところ急増しているという事実はお知らせしておきたいと思います。
 その象徴として、ぼくがWSCの名刺を配ったアマチュアディーラーの造形作家たちからはお礼の言葉と同時に「どうすればもっと上手くなれますかね?」という問い合わせのメールが多々あり、それに対しては「その人に対しこの言葉を投げかければ絶対に伸びるであろう(とぼくなりに思う)アドバイス」を送らせていただいています。
 「……そんなの贔屓(ひいき)じゃないか!」と思われるかもしれませんが、WSC的には「森の中に埋もれてしまっている優れた木にスポットを当てる」ことが目的なわけですから「贔屓、大いに結構!」と考えていますので、たとえば自薦メールを送っていただければそうしたアドバイスをきちんと添えて返信させていただきますよ。


■あと、最後に。
 今回も白井武志(いまは海洋堂の外部アドバイザー的スタンスで、純粋な海洋堂社員ではありません)といっしょにワンフェス会場のアマチュアディーラーを一筆書き状態にて虱潰しに歩いたのですが、「……お、この造形作品ってすごいじゃん!」と思い声をかけさせていただき次期WSCアーティスト候補としてピックアップさせていただいた人の中には、「現職は3DCGモデラーや3DCGアニメーターで、最近になってフィギュア造形をはじめた」という人が男女を問わず何人もいました。
 これに対し白井曰く、「そもそもかつては造形の世界に進む人が少なすぎたんだと思うんです。で、みんな絵画的な世界に進んで行って、それゆえにアニメやゲームなどの会社に就職したんだろうけれど、そこで3DCGの技術を習得した結果、逆算的に造形の世界に目を向けはじめたんだと思うんですよ」とのこと。
 この発言にはぼくも大いに同感で、今期=第31期WSCの中で、WSC#081 kuniとWSC#083 隙間の人がほとんど同様の経緯でWSCに選ばれたのは、「運命」とかではなく、純粋に「時代の流れ(シンクロニシティー)」なんだろうなあ、と。
 というわけで、次回=第32期WSCアーティストの中に3DCGモデラーが何名含まれているのか、そこも要注目ポイントかと思っています(……もっとも、ぼくの現時点の予想だと、第32期WSCアーティストはMAX枠の3名ともアナログ系造形作家になるような気がしていますが)。
 それでは、次回のワンフェスにてまた再見!

▲WSC#083 隙間の人は3D-GANが主体となって行っている3Dステージ『デジタル原型の先駆者に続け! ZBrushモデラー ディスカッション』(16時~17時)に、榊 馨氏(Wonderful Works)、柳生敏之氏(アルター)と共に登壇。登壇前は「緊張する~っ!」を連発していましたが、彼にとっては一生忘れることのないワンフェスになったかもしれません