プレゼンテーション報告書

■まずは何より、今回もまたWSCブースへ足を運んでくださった皆さま、誠にありがとうございました。スタッフ一同、謹んでお礼を申し上げます。
 ……が。
 今冬のWSCは1999年夏にスタートして以来、さまざま意味において重大な一大転機と化した回となりました。ワンフェス実行委員会から配信されたプレスリリース内に記されたその一大転機へのメッセージは、以下のとおりです。


 当初は「すばらしい作品をガレージキットメーカーのクオリティでより多くの方に」と実施しておりましたWSC作品の販売ですが、近年の3DCGモデリングならびに出力・複製技術の向上により、WSCアーティスト自身が製作販売している作品のクオリティも飛躍的に向上しました。
 こうした情勢を鑑み、WSCとしての販売は、一定の役目を終えたものと考え、販売を終了させていただきます。すばらしい作品につきましては、WSCアーティストの出展ブースにてお求めいただけますと幸いです。


 ここに書かれていることは嘘ではありません。
 ただし嘘ではないものの、これだけが本当の理由ではないことにお気付きの方も少なからずいらっしゃるかもしれません。
 というのも──アマチュアディーラーのレジンキャストキットや3Dプリントキットには人件費等が一切計上されていないものが多く、仮にアマチュアディーラーならば1万円で販売できるキットでも、WSCではそこに数々の諸経費が乗ってきて1万円では販売することができなくなってしまうわけです(下手をすると2万円を超えてしまいます)。
 さらにそういった経済条件の問題以上に、海洋堂仕切りでの価格条件(=価格UP)にして販売をした際、プレゼンテーション作品の「内容」ではなく「高価格」が要因となり、結果、「売れない」という事実を残してしまうことに繋がりかねません。
 そしてそのことは選出造形作家の今後の販売活動の妨げになり、作品価値が下がって見えてしまうことすらあるかもしれません。
 つまり、それを改善するというのが販売を辞めたいちばんの狙いです。選出造形作家の価値を下げないための一手として、今回から販売をあきらめたという選択です。


■それゆえ今回のWSCは、昨夏ワンフェス終了直後から「WSC仕様によるプレゼンテーション作品の販売を廃止すべきか継続するべきか」という非常に悩ましい問題に対して、ワンフェス実行委員会内で延々と話し合いが続きました。
 そしてその結果が、今回のスタイルである「WSCは継続するが、プレゼンテーション作品は各WSCアーティストの出展ブースで購入していただく(プレゼンテーション対象作品をいくつ用意して買い手と対峙するかはWSCアーティストの判断に任せる)というものでした。
 もちろん、こうしたスタイルへ移行したのは本意ではありません。本意ではありませんが、WSCを継続するためにはこの方法を選択するしかなかったとお考えいただければ幸いです。
 さらに、「なぜそこまでWSC継続にこだわるのか?」と疑問を抱く方には、「WSC選出を目指してワンフェスにディーラー参加を続けている」という人が想像以上に大勢いるという事実をぜひともご存知いただきたいのです。


■ずいぶん長い前置きとなってしまいましたが、ここからは第41期WSCアーティストの3名にまつわるエピソードを綴っていきましょう。
 WSC#111の干潟為四は「……これ、なんて読むの?」という不思議なディーラー名の持ち主。というわけで「これ、なんて読むの?」と訪ねてみたところ、「読みは“ひがた なるよ"なんですが、造形作家としての名前をそのままディーラー名にしてしまったんです」とのこと。一瞬「なんじゃそりゃ!?」と思ったんですが、干潟の旦那さん曰く、「植物少女園さんやモデリズムさんとか、個人の名前ではなくディーラー名で呼ぶ人のほうが多いじゃないですか。だから、そうした流れに乗ってしまったほうがいいんじゃないか、って(苦笑)」。
 ワンフェスの場合、ディーラー名は一度登録してしまうと変更できないため、このアイディアは結構な「なるほど!」的手法。最初からプロ原型師を目指してこの世界に飛び込んできた干潟夫妻ならではの秀逸なアイディアだと思います。

▲昨冬ワンフェスによるアリスの展示風景。彩色はされていないものの、もう「WSC選出仮決定」状態で、干潟には「お願いだからつまらない塗装をしないでね。ハートが入った塗装ができていれば、まずまちがいなくWSCに選出できるから」と告げて別れたところ、いま各方面で話題の水性塗料“シタデルカラー"を使いすべて筆塗りで塗装をしたとのこと。……うん、これは「ナイスジャッジ」としか言えないですね。


■次期WSCアーティストを探すためアマチュアディーラーホールを一筆書きで歩いている身からすると、「あともう少しでWSC選出レベルまで達するのに……」というような立ち話をアマチュアディーラーとできる機会は滅多にありません(というのも、のんびり歩いていると閉場時間の17時になってしまうので)。
 ただし新型コロナウイルス感染症予防でアマチュアディーラーの参加数がかなり少なかった昨夏のワンフェスでは、目に止まったWSC#112 塚尾 吼と結構な長話ができました。そこで交わした対話を塚尾は自分なりに解釈し、なんとレジンキャストパーツの形状を8割近く修正して見事WSC選出を勝ち取ったかたちとなりました。
 こうした、お互いがよりよいと思う結論に行き着いた上でのWSC選出は、こちらとしても非常にうれしいものがありますね。

▲左がWSCに選出されたバージョンアップVer.で、右が改良前の状態。創作系メカやロボットが好きな人が見れば、どこがどう修正されてどう効果的に変化したかが理解できるはず

▲右端からカラーレジンキャストパーツ(グレー、黒、赤の3色)、透明のパーツが光造形パーツ、その左側が熱溶解積層方式のFDM式3Dプリントパーツ。プリントの「目」が出やすい反面、価格が割安なFDM式3Dプリントパーツを上手く多用していることがよく分かります


■WSC#113 MIDOROはいま、フィギュアの世界ではない場所でも高い評価を受けています。なんともびっくりする話なのですが、昨年9月29日に刊行された新潮文庫 刊/京極夏彦 著『ヒトごろし』のカバー装幀にMIDOROのフィギュアが使用されているのです。
 造形も迫力満点だけれどもアクリルガッシュを使った塗装も秀逸で、さらに、それを撮影したカメラマンのテクニックや装填デザインも「見事」のひとこと。本人曰く「この企画に造形で関わらせていただいたことを大変光栄に存じます」とのことですが、確かにこんなに著名作家の単行本企画に造形作家として参加することができたのは単なる「ラッキー」のひとことでは言い表せないものがあるでしょうね。
 いち造形マニアとして、こうした「ジャンルを越えたフィギュアの越境」がどんどん進んでいくことを切に願うばかりです。

▲ディレクション+装幀/坂野公一(welle design)、撮影/広瀬達郎(新潮社写真部)、造形制作/MIDORO、新潮文庫 刊、京極夏彦 著『ヒトごろし』装幀より。MIDOROならではの「闇深さ」が炸裂した、非常にクールな仕上がりの装幀と言えるはずです


■というわけで、一大転機となった今冬のWSC。「これじゃあ海洋堂が秀逸な造形作家をライバルメーカーに向け紹介しているだけじゃないか」という意見も散見されますが、「これこそが海洋堂の造形魂でありガレージキットスピリットを可視化した世界だ」という見方もできるはずです。
 というわけで、第42期WSC候補の選出作業はすでにスタートしています。夏のワンフェスにて再見、です!