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WSC #029 桜 文鳥
Bunchow SAKURA
[UNDER ELEVEN]
イリーガルとリーガルの狭間での葛藤……
独創性を失わぬままの「変体」に着目されたし
ガレージキットファンを自称する人間ならば、模型雑誌などの誌面を通じ、おそらくは誰もが彼の作品を一度は目にしたことがあるだろう。そして、一度見たら絶対に忘れない(忘れることができない)、独創的にして鮮烈な作風――セミリアルタッチ系創作フィギュアとしての「かわいらしさ」「愛らしさ」もさることながら、その奥から滲み出る、「高度成長期のツケをさまざまな意味で引きずり続けた“昭和”という時代の空気」「少女(処女)という生きものの痛々しさ」「人を模した人型の魂」という異端さが、それを見る者に対してある種の威圧感を植え付けるのである。ラフな言い方をするならば、「なんつーか……カワイイ通り越して“引く(ヒク)”わ、コレ」という感じだろうか。
ただし、WSCが着目したのは「そこから先の物語」だ。
確かに、見る者を引かせる方向性で成功している創作人形作家は何人もいる。が、桜 文鳥はそうした“芸術家”ではなく、あくまでガレージキットのフィールドで勝負している“ガレージキット作家(美少女フィギュア原型師)”だ。「自分の作品を購入し、それを愛でてくれる人が存在して初めて成り立つ世界」に属する商業作家なのだ。
つまり、「見る者が引いてしまっている」という現実を真正面から受け止めた上で、ガレージキット作家としての己のスタンスを逸脱することなく、自分の作風を変に曲げたりせずに、世間の評価と自分の作風とのあいだに折り合いを付けていく作業に着手しはじめたわけだが――こうした変体段階でフォームを崩し、潰れていく表現者はゴマンといるわけだが、桜 文鳥は見事にそれを克服したと言えるだろう。WSCプレゼンテーション作品となった彼の最近作“メイ”が醸し出す、それまでの作品群とは明らかに異なる「凛とした空気感」(もちろんそれでいながら、これまでの独創性はまったく損なわれていない)。これこそが、桜 文鳥が手にした「新たな境地」である。
もちろん、ここがゴールということではないのだが(実際のところ、いまこの瞬間にも、彼の「上手さ」の部分はメキメキとプラス成長し続けている)、この地点まで独立独歩で辿り着いたというその事実が何よりすばらしい。デビュー当時から彼の動向をチェックし続けていた我々は、いまだからこそ、桜 文鳥の才能を世に対し問いたいと思う。
「“文鳥引くわー”とか言ってた人たち、いまでもまだ彼の作品に引きますか? というか、彼の最近作を真剣に眺めていますか?」
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text by Masahiko ASANO |
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さくらぶんちょう●1972年5月23日生まれ。小学2年生のころに生じたガンプラブームにハマり、かなり早い時期から本格的な模型製作へ着手するものの、オフロードバイクにハマってからは「プラモを買うお金があるならばガソリン代に……」というスタイルへ転じ、25歳のときに大型D.I.Y.店へ就職。しかしその後、同店テナントの模型店店員であったマニアと知り合い、その友人に誘われ'01年リスタートのワンフェスへ“UNDER ELEVEN”名義にてディーラー参加する。それ以前はフィギュア造形の経験が皆無だったものの、実際に着手してみると創作のよろこびに目覚め、俄然そこに向けて集中(が、そのときイキナリ会社を退職してしまったあたりが無謀!)。フィギュア造形2作目にて、マイナーな同人誌キャラクター作品が20個完売したことに気をよくして「自分のオリジナルキャラクターでもやっていけるのでは?」と考え、創作キャラクター造形へと転ずることになる。現在は専業原型師として活動中だが、「ドール方面にも興味がある」とのこと。
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WSC#029プレゼンテーション作品解説 |
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© トリブレイン

メイ
※1/6(全高110mm)レジンキャストキット
■商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/3,500円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/5,250円(税込)
(※販売は終了しています)
一度見たら絶対に忘れることができない、強烈な個性を放つその作風。桜 文鳥が生み出す、まるで見る者の魂を吸い込むような“目力”を有した少女たちは、「かわいい」というお手軽な言葉だけでは絶対に語り尽くすことのできない、創作系美少女フィギュアというジャンル自体の今後の可能性をも感じさせてくれます。
プレゼンテーション作品となる“メイ”は、彼が“昭和”をテーマに据えて展開している創作キャラクターシリーズの第5弾にあたるもので、それ以前の作品とは確実に異なる、洗練されてひと皮剥けた仕上がりを堪能することができる逸品です(レジンキャストパーツは肌色と白の2色成型になります)。その独創性の高い作風ゆえ、どうしても「顔が好き or 嫌い」というような話に終始してしまいがちですが、じつはレジンキャストキットとしての創造力や完成度も相当なもので、実際に組み立てる立場にならないとなかなか気付くことのできない巧みなパーツ構成(眼球の別パーツシステムや色別分割)は、ぜひとも注目していただきたいポイントです。
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桜 文鳥からのWSC選出時におけるコメント |
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皆様こんにちは。ぼくは桜 文鳥という名前でフィギュアを作っている者です。作っているものは主に“昭和”を感じさせる少女フィギュアです。
“昭和”である理由は、その時代(厳密に言うと1960~1970年代中頃まで)の日本の雰囲気や、音楽、ファッション、あらゆるもののデザインが好きだからです。
“少女”である理由は、純粋な子供の魅力を表現したいということと、“少年”より売れるからです。
もちろん子供が好きだからというのもあるし、少女の身体に純粋な造形美を感じ、創作意欲を刺激されるからでもあります。
桜 文鳥という名前はもちろん本名ではありません。これは「芸名みたいなのがあったほうがおもしろいな」という単純な考えで、鳥の文鳥が好きだったのでこの名前にしました。語呂もなんとなく浮世絵師みたいでかっこいいなぁなんてちょっと思ってたのですが、「浮世絵師みたいだね」ではなく「落語家みたいだね」と言われることが多いです。
UNDER ELEVEN(アンダーイレブン)というディーラー名は「思春期前の子供の純粋さ」を意味しています。ぼくの作るフィギュアが“アンダー11”的でもありますが、メンバー自身が全員(当初は3人でした)子供っぽいという意味も含んでいる気がします。あと、呂響がかっこいいというのもあります。
「純粋」という言葉が何度も出てきましたが、ちょっと補足。
子供の純粋さというのは、必ずしもいいことばかりではありません。ときにわがままだったり、バカだったり、残酷だったりします。
でもぼくは、そんな喜怒哀楽のすべてを素直に発現する子供に魅力を感じるのです。そういった魅力を創作で表現したいなぁと、日夜努力しています。
そんなことを続けながら家でも建てることができれば最高ですが、将来はどうなるかわかりません。
でも、年老いて死ぬそのときまで創作を続けていられたら幸せだなぁと思います。
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