アーティスト紹介

WSC #058 takezy

[サイレントマイノリティ]

ロリっぽいアレンジはじつは一種のフェイク!?
着目すべきは「硬やわらかさと○○顔の融合」

 美少女フィギュア造形の世界には“○○顔”という言葉が存在する。○○のなかには得てして著名原型師の名前が入り、「宮川(武)顔」「ボーメ顔」「あげた(ゆきを)顔」といった具合に用いられるのだが、この言葉が意味するのは「どのキャラクターを造形しても同じ顔をしている」ということである。つまりは一種の揶揄でもあり、「造形の元となった画にそっくりなことが正しい美少女フィギュアの姿」といった風潮が色濃い昨今では、○○顔という造形スタイルを嫌う人も少なくない。
  もっとも、○○顔を作風とする原型師たちは、自分の造形するフィギュアの顔が元画と似ていないことを十二分に承知した上で「意図的に元画に似せていない」のだ。「自分の造形タッチ内にキャラクターを押し込み、そのキャラクターを自分色に染め上げる」というところに力点を置き、他者には絶対に造形することのできない美少女フィギュアを生み出すということをストロングポイントとして設定しているのである。
  ただし、その○○顔が「元画と似ていない」というハンディキャップをうっちゃり、「元画とは似ていないけれどこれはこれでカワイイので大好き!」という評価を勝ち取るためには、○○顔がそれ相応以上の完成度を誇っていないことにはお話にならないとも言える。
  ―と、そのような大前提を踏まえた上でtakezyの存在を超大ざっぱにまとめるならば、「○○顔が流行らぬいまの時代に、“takezy顔”を武器にして急速に成り上がってきた新星」ということになるだろう。
  決して若いとは言い難い自身の年齢と、遅れに遅れたスタート(「数年前まで美少女フィギュアには一切興味がなかった」とのこと)を踏まえ、「いかに効率的に作品数を増やすことができるか」ということを念頭に置いた製作スタイルはクレバーのひとこと。そして、そこから導き出されたのがエポキシパテによる手びねり的な造形なのだが、これが自身の作風確立に見事なまでにハマった。いかにもエポキシパテでひねり出したとわかる硬質感のなかに絶妙なやわらかさが加わり、「硬やわらかい」とでも表すべき独特のタッチを生み出すことに成功。そして、そこに高い完成度のtakezy顔を組み合わせることで、takezyの戦術が明確化するに至った。
  ロリっぽいアレンジに視点が行きがちだが、じつはそこは大したポイントではない。硬やわらかさとtakezy顔の融合がもたらす、他者には真似ることのできない表現こそがtakezyのストロングポイントなのである。

text by Masahiko ASANO

タケジ19XX年1月2日生まれ。幼少期からキャラクターモデルに慣れ親しみ、中学生時代には相応以上にガンプラ製作にハマるも、高校~実家の家業(日本海の地魚と、地元新潟の日本酒をメインに扱う居酒屋)を継ぐタイミングではバイクに夢中になり、オタク趣味からは疎遠に。が、'04~'05年に、家電量販店で見かけたPVC製トレーディングフィギュアに突如激ハマりし、そこから急速に「美少女フィギュア」という対象に興味を抱くことになる。その後、インターネットを通じて得た知識に基づき、美少女フィギュアの習作をいくつか製作。そして、一般参加者として訪れたワンフェス会場の風景を眺めて「自分の作品でも通用するのではないか」と考え、'09年夏に“サイレントマイノリティ”名義にて初ディーラー参加を果たす。ディーラー参加をはじめた当初より『ワンダーショウケース』選出を目標とし、現在フィギュアメーカーからの原型製作の仕事も依頼されているそうだが、今後も家業を堅実にこなしつつ、その合間を縫っての造形活動となる。

WSC#058プレゼンテーション作品解説

© Crypton Future Media, Inc. www.crypton.net


初音ミク“ロリータスタイル”
WSC ver.

from DTMソフト『キャラクター・ボーカル・シリーズ01 初音ミク』
ノンスケール(全高150mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/4,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/6,800円(税込)


 「数年前にショップで見かけたPVC製トレーディングフィギュアにひと目惚れする以前は、美少女フィギュアには一切興味がなかった」というtakezy。'10年冬のワンフェスで発表し、自らの作風を確立させるに至った記念碑的作品『初音ミク“ロリータスタイル”』に、いま現在の自分が納得のいくレベルまで改修を加えたWSCバージョンがプレゼンテーション作品となります(改修以前の作品をtakezyの個人Webサイトで確認していただくことで、ここ2年間におけるtakezyの成長ぶりをリアルに把握していただくことができると思います)。「元画に忠実に似せることこそが正しいキャラクターフィギュアの姿」的な風潮が色濃い昨今において、DTMソフトウェアの象徴たるキャラクターを独自のセンスでロリータ風にアレンジしたその姿は、見る人によってはやや異端に映るかもしれません。が、「自分の作風たる個性的な顔の造形のなかにキャラクターを押し込む」というそのスタイルこそが、takezy造形のストロングポイントなのです。

takezyからのコメント

「ビールってレジンのB液に似てるよね」
  いつものように生ビールのジョッキを傾けながら、つぶやく。じつに飽きっぽい私は、どんな趣味も続かなかった。唯一の長続きしている趣味と言えるのが酒だった。フィギュアに出会うあの日までは。
  そして粘土と格闘する日々がはじまった。真夜中にスパチュラで粘土のかたちを整えてはビールを飲み、リューターを唸らせてはビールを煽る。机の上にビールの空き缶が並び、アルコールの血中濃度が上がっていく。なんか楽しくなってきた。もうなんでもできる気がする。私は天才だったのだ……。
  翌朝。
  おかしい……。美少女フィギュアを作っていたはずなのだが、机の上には美少女っぽいクリーチャーがある。どこでまちがったのか。思い出そうにもどうにも記憶がない。これでいいのか。いいわけない。なんとかしなくては。ひょっとしてフィギュアを作りながら酒を飲んではいけないのでは……? いやいや、そんなことはないだろう。きっとほかに何か原因があるはず。
  数ヶ月後。
  机の上には数体の美少女っぽいクリーチャーが並んでいた。これはもう認めなければならないようだ。仕方ない。酒が原因だと。
  2011年秋。
  どうにも場違いな場所に来てしまった。そこは『ワンダーショウケース』の撮影スタジオだった。まずい。じつにまずい。「アーティスト解説執筆用にいろいろ話を聞かせてほしい」とのことだが、フィギュアをはじめて間もない私には話すことなど何もない。つい数年前までフィギュア自体を知らなかったほどなのだ。困った。ああ、ビールが飲みたい……ビール、ビール……。
  いずれにせよ、たまにはこんな酒浸りのWSCアーティストがいてもいいような気もする。まあいい。とりあえずビールだ。今日は店のビールをすべて飲み干してやろう。