アーティスト紹介

WSC #101 狐火郎

[もものはなうり]

「プロ原型師8年目」にしてのWSCアーティスト選出
ただし、そこには当然それ相応の理由が存在した

 数多くのフィギュアメーカーからPVC製塗装済み完成品がリリースされていることを考えると、男性キャラクターフィギュア好きの人からすれば「……なぜいまごろ狐火郎さんが『ワンダーショウケース』なんかに選ばれるの、ムキーッ!」という感覚かもしれない。
 が、'18年夏のワンフェスの“もものはなうり”にて展示されていた『刀剣乱舞 -ONLINE-』の日本号を見るに至り、「明らかにヤバい空気」を感じ取ってしまった。
「……私、このままでは原型師としてたぶん壊れてしまう。クライアントのリクエストにただ応えていれば生き延び続けていけるかもしれないけれど、近い将来、自我が崩壊してしまうかもしれない」というオーラだ。
 そしてその旨を狐火郎に包み隠さずメールしてみたところ、人生相談的な(苦笑)長文が返信されてきた。
「……私、プロデビューして8年目なんですね。それ以前の造形歴も含めると13年以上やっています。最初は“とにかく上手く作らなければ……”ということで頭がいっぱいでガレージキットの趣旨や奥深さなど考える余裕もなく、作り続けてたらご縁がありプロデビューできて、そこからまた作り続けてたら、気が付けばイケメン量産機のような存在になっておりました……。
 そんな中、とあるお仕事で原型製作を担当させていただいたのですが、そこで大きな挫折を味わうことになります。そのキャラクターの内面性的なものが見えてしまったような気になり、それを盛り込んで造形したところ、版権元さんの抱くイメージとはるかに違うものができてしまったらしく結果は散々でした。
 その結果、“ワンフェスでは自分らしさを100%全開にした造形に徹しよう!”と心に近い、そうして完成したのが日本号だったのです。たぶん、あの日本号とその次に造形したへし切長谷部が私が初めて“誰のためでもない、自分がこういうものがほしい!”と心の底から自己主張して作ったものなんです。WSC公式サイトの概要を読んだら本来のガレージキットの趣旨、原点が書かれていたので納得しました。なんてことはない、ただガレージキットの原点に立ち戻っただけですね(笑)。くどくど書きましたが自分なりに考えた結果、今回WSCに選んでいただければ、必ず《ただのイケメン量産機》から次のステップに進めるんじゃないかと思います!」
 ちなみになぜぼくが日本号に惹かれたのか、その理由を綴る必要はないはずだ。彼女の武器は「空間構成能力と躍動感」にある。数あるフィギュアメーカーはそこを理解した上で彼女に仕事を依頼してほしい。彼女の目前にはすでにセカンドブレイクが存在しているのだから。

text by Masahiko ASANO

こひろう1979年12月12日生まれ。「気付いていたときにはすでにアニメ好きだった」という幼少期を過ごし、'80年代の美少女アニメ物に傾倒。ただし小学校高学年あたりがそのピークで、中学卒業からはアニメから疎遠になる。そして高校卒業後、地元の会社に勤めていたものの「自分、このままここで人生が終わったら死んでも死に切れない、成仏することができない」という思いがふつふつと湧き、自分で貯めたお金を使い代々木アニメーション専門学校へ入学届けを出す。が、ちょうどそのころたまたまフィギュア専門誌を目にし、「絵ならば独学で何とか行けるかもしれないが造形は習わなければ無理だろう」と突如スイッチが入り、フィギュア科へあっさりと乗り換えることに。ワンフェスへは'07年夏あたりから友人と共にディーラー参加しはじめ、'14年冬より“もののはなうり”名義でエントリー。いま現在、ZBrushを使った3DCGモデリングへの乗り換えを計画中とのことだが、「仕事が忙しくてZBrushの勉強ができない」というジレンマを抱えているという。

WSC#101プレゼンテーション作品解説

© 2015-2019 DMM GAMES/Nitroplus


日本号

from PC版ブラウザゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』
1/15スケール(頭頂高120mm、槍尻まで152mm)


商品販売価格
ワンフェス会場価格/7,900円(税込) ※ワンフェス会場販売分30個限定
※諸般の都合により、一般販売は行われません


 プロ原型師としてすでに8年近いキャリアを誇る狐火郎がいまごろWSCへ選出されたことに対し、違和感を覚えたイケメン系男性キャラクターフィギュアファンもいることでしょう。しかし狐火郎の本当の資質は「類稀なる空間構成能力と躍動感の表現」にあるのですが、これまではフィギュアメーカーの発注に基づく素立ちポーズや座りポーズの作品を手掛けることが大多数を占め、そこから来たモヤモヤ感や倦怠感を払拭するために「他人(クライアント含む)のためではなく、自分自身のためへの造形」として初めてモデリングしたのがプレゼンテーション作品『日本号』(『刀剣乱舞-ONLINE-』に登場する刀剣男士)だったのです。
 その結果、これまで自分の中に溜まっていた鬱憤を晴らすような、そしてこれまで「イケメンキャラ造形の達人」としてしか彼女のことを見ていなかった人たちからするとおそらく面食らうような、生き生きとした躍動感と荒々しい凄みに溢れた作品が完成。とにもかくにも360度どの角度から眺めてもまったく破綻していないポーズ付けなど、頭頂高わずか120mmという小ぶりな造形物とは思えぬほど見どころ満載な作品となっています。

© 2015-2019 DMM GAMES/Nitroplus


※狐火郎からのコメント

 狐火郎と申します。このたびはWSCに選出していただき大変ありがたくも驚いております。
 自分は、そこそこ長いあいだ原型師を生業とさせていただいておりますが《アーティスト》としての自覚はほとんどありませんでした。《アーティスト》の定義がじつのところよく分かりませんが、なんとなく自分の中で「アーティストではありません。クライアントの注文にとことん応える仕事人です」という気持ちのほうが大きく、これからもそのようにやっていくのだろうと思っていました。
 が、このたびあさの氏に見い出されたことにより、かつてないほど己と造形について考えたのです。
 私は一体何がしたいのか?
 もっとも以前から現状維持のままの自分にモヤモヤとはしていたのですが、だからといって何をどうしてよいのか分からず漠然とした日々を過ごしておりましたところ、ツイッターで海洋堂の香川雅彦氏の作品を目にし、「なんて生き生きした造形なのか……! 私もこんなの作りたい!」と衝撃を受けまして(恥ずかしながらこの時点まで、かのレジェンドの存在を知りませんでした)、とりあえずいまいちばん好きな作品、『刀剣乱舞』で見様見真似で作ったのが今作の日本号です。
 結果、『ワンダーショウケース』に選ばれるとはまさかまさかでしたが、その後関係者さま方のお話をうかがう機会にも恵まれ、また多くの方々にキットを手に取っていただけたこと、作って本当によかったとしみじみ感じています。
 私は十数年前、安定した生活を捨てフィギュア界という謎過ぎる世界に入るため崖から飛び降りました。いま、そのときと同じ崖が目前に広がっている気がします。さらにおかしな人として飛び降りるか、ここで引き返すか。
 「毒食らわば皿まで」。
 そんな言葉が脳裏をよぎる今日このごろです。