アーティスト紹介

WSC #095 ジム

[ぅらめしぃ~わっほい!]

すでに完成の領域にある「求道的な造形スタイル」
しかしアクセルを踏み込む余地はまだ残されている

「毎回『ワンダーショウケース』のプレゼンテーションを見るたびに心がざわつきます。とても気になります。ワンフェスに参加しはじめたばかりで、頭でイメージするような作品がまだ作れずにいたころ、“いつかはこうなりたい”という強いあこがれ、目指すハードルとしてWSCのことを見ていました。
 ワンフェスへの参加回数を重ねるうち、人から巧いと言われることは増え、商業的な仕事において一定の基準を満たした成果を出すこともできるようになってきました。しかし、いちばん最初に目指していたハードルを未だ超えられる気配がないという事実は、淀みとしていつも心の片隅に残っています」
 ぼくがワンフェス会場でジムに渡した名刺に記載されているメールアドレスに、上記のような内容のメールが送られてきた。事実上の自薦メールである。
 ジムの存在は“ぅらめしぃ~わっほい!”としてワンフェスにディーラー参加しはじめた'16年冬からチェック済みで、そのときから次期WSCアーティスト候補としてマークし続けてきた。が、本人がフィギュアデベロッパー会社社員としてすでにしっかりとした地盤を築き上げているという事実を知るに至り、「WSCとは縁がないまま終わってしまう存在なのかな」と考えていただけに、「意外」としか表現しようのない展開だ。
 さて。前述したようにWSC選出基準を楽々とクリアしていたジムのストロングポイントは、「二次元の元絵をそのまま立体化するだけでは三次元作品としての意味がない」という考え方と、実際にそれを高い次元で成し遂げ続けているにも関わらず決して己の造形レベルに対し満足しようとしない求道的なスタイルにある。
 たとえばプレゼンテーション作品となったFlower Secretでぜひとも注目していただきたいのは、元絵となったイラストをただ普通に立体化した場合、ここまで前後に奥行き感のある造形作品になるわけがない点だ。こうした「奇をてらった手段を用いずに、見る者を驚かして(楽しまして)なんぼ」という彼の姿勢と造形作品には、素直に敬服してしまうところが大きい。
 もっともその反面、あえてジムのウィークポイントを挙げておくとすると、有無を言わさぬ爆発的なパワーが造形作品から発せられていない優等生的なまとまりのよさだ。もしもそのことをジム自身がきちんと理解しているのであれば、彼は近い将来もうひと皮剥けることはまちがいない。もっと思い切って(自信を持って)アクセルを踏み込めば、彼はまちがいなくいまよりふたつ上のステージまで達することができる才能の持ち主である。

text by Masahiko ASANO

じむ1988年7月25日生まれ。幼少期はアウトドア派の子供だったものの小学生低学年時にミニ四駆にハマり、そのままの流れでガンプラ製作へがっつりと傾倒。「主はガンプラ製作でガンダムのアニメは従」というスタイルにて中学~高校時代を過ごす。その後、教員になることを本気で目指していたため教育学部のある大学へ進学。本来ならば学業1本に集中するべきだったのだが、ワンフェスにディーラー参加していた友人が周囲にいたため自分でも『.hack//G.U.』のトライエッジを造形し、大学2年生のとき='09年夏のワンフェスに友人たちと“讃岐工房”名義で初のディーラー参加を果たす。ただし大学も教員免許を取得してきちんと卒業、中学や高校で数学の常勤講師や非常勤講師を務めたという異色のプロフィールを有しつつ、知人からフィギュアデベロッパー会社を紹介され就職、造形を生業とする道へ進むことに。ワンフェスへのディーラー参加歴は'12年冬~'14年夏の“JAMMING OFF”を経て'16年冬に一念発起、現在の“ぅらめしぃ~わっほい!”へと推移し現在へ至る。

Webサイト http://wahoi.com

WSC#095プレゼンテーション作品解説

© redjuice


Flower Secret

from イラストレーター“redjuice”によるイラストの立体化
ノンスケール(全高240mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/15,000円(税込) ※ワンフェス会場販売分40個限定
ワンフェス以降の一般販売価格/18,000円(税別)

完成見本製作/わきメカのまつ


 すでにプロの造形作家としての地位を築きつつ、しかしワンフェスにディーラー参加しはじめたころの『ワンダーショウケース』への憧憬が「喉に刺さったままの魚の骨」として、WSCの動向がつねに気になり続けていたというジム。そのあまりにもプロ原型師然とした作風ゆえに意図的に距離を置いていたのですが、ジムから突然届いた自薦メールにより一気に事態が動くこととなりました。
 今回プレゼンテーション作品としてピックアップした『Flower Secret』(イラストレーター“redjuice”のイラストの立体化)は、'16年夏のワンフェスにて初販売~その後も継続し販売され続けているものの、アマチュアディーラーゆえの生産数により未だ未入手の人も多いはずの名作。元絵となったイラストはスカートと太ももまでしか描かれていなかったのですが、「それをそのまま見様見真似で立体化するだけでは“+1D化”する意味がない」と悪戦苦闘したジムの真摯な造形スタイルは、決めカット=イラストと同じ正面から見た角度から眺めるよりも+1D分の奥行き感としなやかさが備わった側面から見ていただいたほうがその魅力&ジムのこだわりが見て取れることと思います。

© redjuice


※ジムからのコメント

 皆さま初めまして。ジムです。
 なんだか気はずかしいですね。「いっそ振り切ったら逆に大丈夫かな」と友人に頼んでステキなアーティスト写真を用意したのですが、やっぱりはずかしい。
 昔から手を動かしていると落ち着いて、ハマると食事も忘れてひとり作業することが多かったです。地道な作業の合間、完成した姿がチラリと見えた瞬間にワクワクさせられるのが好きです。
 ただ、最終的に満足できたことはほとんどありません。「もっといいものになったのでは?」と完成した形を見つつモヤモヤします。
 Flower Secretはシンプルに、魅力的な造形に仕上げることを目標に作りました。
バストアップのイラストから全身をイメージして作り上げる。単純になぞったかたちに延長して下半身を付け足しても魅力は出てきません。バレエの研ぎ澄まされた美しいかたちをとにかくたくさん見たり、フラワーアレンジメントを覚えたり。ひとつひとつ下地の筋力を付けて作りました(おかげで3年近くかかってしまいました……)。「美しさ」とか「格好よさ」といった漠然としたイメージを分析する方法。伝わりやすく記号化して造形に乗せる技。人に「よさ」を伝えていくためにとても重要なことにたくさん気付き学びました。
 ガレージキットを購入された方から、お手紙をいただいたことがあります。全力を尽くして世に出したあとは、そのよさは見た人たちそれぞれが見出すものだとつくづく感じました。慢心せず、卑下せず、自身と見てくれる人たちの幸せに寄り添える作品が作れるような造形師を今後も目指していきたいです。
 最後に、こうした場に立つ機会を与えてくださったあさの様と関係者の皆さま。そしていつも力になってくれるディーラーの仲間たち、地元の友人にこの場を借りて心から感謝をお伝えいたします。